三浦:それをあえて「いい」と言ってもらうと、たしかに「いいな」と思えた。それが初めてでした。

馬場:その頃の僕の目線は、コンバージョン(建築の用途変更)。アメリカで名もなきモダンな普通のビルというものが、よみがえらされたのを見て、こういう解答があるんだなと思って。それで日本に戻ってきて、新橋の裏通りにあるペンシルビルを見て、あのどうしようもないと思うペンシルビルすら、住居に変えたり宿に変えたりとか、違う機能との出会いがあることで見え方が変わるんだと思って、そういう目線で見ていた。「ポテンシャルビル」という単語を使ってた。何か変化の可能性のきっかけみたいなのを、探しながら歩いてた気がする。

三浦:今も「ポテンシャルがある」はリノベ業界のキーワードだし。でも、そもそも古いオフィスビルのどこが好きなの? ディテールとしては。

馬場:エントランスの右側にガラスブロックがちょっと入ってるとか。今は絶対焼いてないであろう荒いタイルが張ってあるとか、階段とか、木の手すりとか、ドアノブとか。そういうマニアックな部分を探しましたね。

三浦:だよねえ。玄関から入ると階段が横向きに付いてるとか。

馬場:そうそう。

三浦:馬場くんは昔からそういうのが好きだったわけ?

馬場:いや、なんかね、ぼんやり思ってたんだけど、それを肯定する方法がわからなかったというか。これかっこいいって言っちゃっていいのかなって不安だったんだけど。なんかどうも言っていいらしいと自信にかわったというか。

三浦:看板建築と同じ気づき方ですかね。

馬場:そうそう、見立てです。これを肯定していいんだって思った瞬間に自由になった。

三浦:でも馬場君が初めて肯定したんでしょ、日本で初めて。

馬場:いや、そんなことは自信満々では言えないですけど(笑)。あと、愛でるだけでなく自分が借りられる。自分事にできたってことが大事で。

三浦:なるほど。実際こんなのに住めるんだ!ってことが衝撃だったからね。

馬場:みんな2000年から2003年ごろですね。

■街を見直しつづける

馬場:そのころを考えると、三浦さんが書いた本も思い出しますね。『ファスト風土化する日本』っていつ書いたんでしたっけ?

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