スマートフォンの代名詞、iPhoneを「電話の再発明(reinvent)だ」と言って世に送り出したのは、スティーブ・ジョブズだ。彼もまた膵臓(すいぞう)がんを患っていた。

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 2日間と5日間。私の1週間はおおむねこの2種類に分けられる。

 週末に2日間休み、平日に5日間働くという暮らしではない。

 2日間はこの連載の原稿をまとめ、担当者とやりとりする日。

 残る5日間は、その他もろもろにあてる期間だ。スマートフォンの機能のチェックから原稿の材料集めまで、体調が悪化することを見越して並行して進める。たとえば、いつか原稿に生かすために、あるイベントをのぞくかどうか。「この日に体調を崩しても執筆まで2、3日あるから間に合う」といった具合に見極める。

 もっとも、こうした二分は表面的なものに過ぎない。

 ものごとを考えては、数段落の短文にまとめ、メールボックスの下書きフォルダーに保存していく。そうした下準備に日にちも、場所も関係ない。

 この短文は、いわばお団子のようなものだ。テーマという串によって、必要なものをいくつか引っ張り出し、その場でこしらえたお団子と一緒に串刺しにする。そんなイメージだ。

 短文には2種類ある。

 一つは「スマートフォンの機能を試したら体がゾクゾクしはじめ、40度近くまで体温が上がった」といった情景や心境のスケッチ。日常から「がん患者らしいリアリティー」を切り取ったものだ。

 もう一つは「自分のがんを出発点にすると、世間をこう論じられる」というエピソードやアイデアだ。最近で言えば、膵臓がんだった現職の急逝で実施される沖縄県知事選や、乳がんだったさくらももこさんの逝去などだ。

 永田町の動きもここに含まれる。ここで難しいのは、がん患者としての実感を伴ったことを書くと、多くのテーマで結論が似通いかねないところだ。

 たとえば、私は5月の党首討論を新聞記事でこう批判した。

「人の持ち時間には誰にも限りがある」
「機会を十分生かさないのは不真面目に見える」

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連載開始から1年…