大阪桐蔭の根尾昂 (c)朝日新聞社
大阪桐蔭の根尾昂 (c)朝日新聞社

 甲子園で最も面白いと言われる準々決勝。その定説通り今大会も好カードが揃ったが、その中でも最大の注目はやはり第一試合の大阪桐蔭(北大阪)と浦和学院(南埼玉)の対戦だろう。史上初となる2度目の春夏連覇を目指す大阪桐蔭の優位は揺るぎないと見られているが、ここまでの戦い方を見ると不安要素がないわけではない。まず一つ目は投手陣の不安だ。選抜と北大阪大会まではここ一番の勝負と見られる試合では根尾昂を先発起用することが多かった。実際に選抜の決勝でも根尾が完投し、二年連続の優勝投手となっている。

 しかし、その“投手・根尾”の状態がもう一つ上がってこないのだ。北大阪大会準決勝の履正社戦では終盤につかまり4失点。土壇場で逆転して何とか勝ち上がったものの、完全に負け試合の展開だった。そして、本大会でも2回戦の沖学園戦に先発したが、8回を投げて8安打4失点で2本のホームランを浴びるなど、内容はピリッとしない。選抜では決め球として威力を発揮していた縦、横のスライダーの制球が安定せず、ストレートも浮く場面も多い。

 スピードは、140キロ台中盤をコンスタントにマークしていたものの、変化球が良くないため数字ほどの威力は感じられなかった。先発はここまで安定したピッチングを見せているエースの柿木蓮が予想されるが、根尾をリリーフで送り込むにはかなり勇気がいる状況であるため、柿木にかかるプレッシャーも大きくなるだろう。浦和学院の打線は1番から6番まで左打者が並び、3回戦で二松学舎大付の147キロ右腕、岸川海を攻略しているように、右の本格派投手を苦にしていない。いかに、柿木が好調といえども一人で抑え込むのは簡単ではないだろう。

 大阪桐蔭にとって、もう一つの脅威になるのが浦和学院の大型右腕、渡邉勇太朗だ。大阪桐蔭も中軸は左打者が並び、どちらかというと左投手を苦手にしているというデータはあるが、ここまでの渡邉のピッチングを見ているとそう簡単に打ち崩せるレベルの投手ではない。序盤はストレートを意識させ、中盤以降は緩い変化球をうまく使って抑えているように、スピードに頼らずにあらゆるバリエーションで打者を打ち取れるのも長所だ。3回戦で9回を一人で投げ抜いているが球数は109球に抑えられており、南埼玉大会での登板イニングも多くなかったためコンディションに大きな不安はないだろう。

 むしろ、甲子園に来てから状態は上がっているようにも見える。勝ち残っているチームの投手の中では、一人で大阪桐蔭を抑え込める可能性が最も高い投手であると言えるだろう。大阪桐蔭も当然、渡邉対策は相当行ってくると考えられるだけに、この対決は今大会を通じても最大のポイントと言えるだろう。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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金足農はエース吉田の疲労が気がかり