現在の状態を考慮すると渡邉に分があるが、総合的に見て大会ナンバーワンと言えるのはやはり吉田輝星(金足農/秋田)になるだろう。ここまで3試合で41三振を奪っており、3回戦の対横浜戦では最終回の161球目に自己最速に並ぶ150キロをマークして大観衆を沸かせて見せた。その吉田擁する金足農は第四試合で近江(滋賀)と対戦するが、こちらは対照的に「4本の矢」と呼ばれる複数の投手陣による継投が持ち味のチームである。

 そして、ここまでのピッチングを見ていると、秋田大会の序盤に比べて吉田の状態ははっきりと落ちてきていることは間違いない。3段のギアを使い分けていると言えば聞こえは良いかもしれないが、1試合を通じて力を入れられるポイントは確実に少なくなっており、全力で勝負に行った時のボールにも勢いに陰りが見えている。チーム力を考えると近江に分があり、金足農にとっては苦しい展開が予想されるが、吉田の状態と将来を考えて途中での降板やリリーフでの起用などを検討できるかに注目したい。

 投手の注目選手が吉田であれば、野手での注目選手は小園海斗(報徳学園/東兵庫)になるだろう。2回戦では大会タイ記録となる3本のツーベースを放ち、チームの3得点全てに絡む活躍を見せ、3回戦では3三振に終わったものの逆転に繋がる盗塁と再三の好守備を見せて、打撃以外の面でもアピールした。攻守両面でチームに与える影響は大きいだけに、まずは初回の第一打席に注目したい。

 その小園擁する報徳学園と対戦する済美(愛媛)はエースの山口直哉が大黒柱。金足農の吉田と同様に地方大会から一人で全イニングを投げ抜いているだけに疲労は心配だが、3回戦では高知商の強力打線を1失点に抑える見事なピッチングを見せている。持ち味の緩急で小園を抑え込むことが、済美の勝利にとっては必要不可欠となるだろう。

 第3試合は、初のベスト8に進出した下関国際(山口)が7年ぶりの優勝を狙う日大三(西東京)に挑む。下関国際は大会前の評価は決して高くなく、今大会が甲子園初勝利ということからもまさにダークホース的な存在。2回戦では大会屈指の好投手、西純矢(創志学園/岡山)に対して粘り強く球数を投げさせる作戦で、わずか3安打で5点を奪って勝利。3回戦でも優勝候補の一角に挙げられていた木更津総合(東千葉)打線をうまく分断して1点に抑え込んで逃げ切った。いずれも相手を下回る安打数ながら競り勝っており、相手の良さを消す戦い方は見事で、エースで4番の鶴田克樹の存在も大きい。戦力的には劣るものの、全国でも屈指の強豪である日大三を相手にどのような作戦をとってくるかに注目したい。

 大阪桐蔭、浦和学院、近江、報徳学園、日大三は、現代の高校野球を勝ち抜くための条件を揃えた投打に充実した戦力を誇るチームである。一方で金足農、済美、下関国際の3校は大黒柱のエースがチームを牽引する昔ながらの高校野球の雰囲気を感じさせる。

 確率論で言えば前者の5チームが有利であることは間違いないが、甲子園の大観衆は力が劣るチームが善戦すると途端にそちらの応援に回り、その大声援に相手チームが飲み込まれるケースも少なくない。100回目の準々決勝は果たしてどのような結末になるのか。そのような実力を超えた部分が引き起こすドラマにもぜひ注目してもらいたい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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