去年の夏、ちょうど1年前。映画「銀魂」の地方での舞台挨拶を、小栗旬氏、長澤まさみ氏、監督の福田、僕の4人で廻ったことがある。その時、当時、ミュージカル「ヤングフランケンシュタイン」の稽古中だった小栗が控室で、楽しそうに、本当に楽しそうに、歌やダンスを1人で練習していた。それを不思議そうに見ていた僕に、福田が満を持したように、「二朗さん、小栗くんだって、山田(孝之)くんだって、こうやって新しい可能性に挑戦しようとしてるんだよ。二朗さん、先輩として、どうなのよ」と、説得というより、ほぼ説教をされ、なんだか分からんがこの時ばかりは「うん、そうだな、うん、うん、はい、はい、そうですね、はい」と途中から敬語に変わり、最後にはほとんど先生に怒られてる生徒みたいになり、そんで、出ることになったのミュージカル。

 孝之が初舞台に「フル・モンティ」というミュージカルを選んだ理由をこう言っていた。「とにかく、無謀なことをやりたかった」。なんでやねん。いい歳した大人がなんでわざわざ無謀なことをするねん。ただ、見習わねば、と正直思った。いや別に無謀なことをしなくてもいいんだが、このメンタルは見習わねば。世の中のちゃんとした大人が、みんな無謀なことをし出したら、ひっちゃかめっちゃかになってしまうだろうが、僕たちは役者だ。年相応の分別で無茶をしないのは、ちゃんとした大人の方々に任せて、浮き草稼業の僕らは、分別なしに無茶をやらかして、そんなんも含め、皆様を楽しませねば。これは「役者だから許される」という免罪符の意ではない。「役者ならそうありたい」という、むしろ僕が僕を縛りつける、枷(かせ)だ。

 昔、大好きな先輩俳優である鶴見辰吾さんが、ロケ現場(確か静岡だったと記憶している)まで、なんと趣味である自転車でおいでになって、驚くスタッフや共演者に、「役者はさ、みんな、人を驚かすことが好きなんだよね」と笑顔で仰っていた。

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「ミュージカルは宴会みたいなもの」