こうして足軽エンペラーも、終わりを迎えた。富男君から解散を告げられ、山里さんは、ようやく自分の横暴さや、一人では何もできない無力さに気づいたそうだ。

「人に怒ることで、自分が上だと思ったり、切磋琢磨してると錯覚するのは、本当に良くない。それは『自分が頑張ってる感』を楽して手に入れる方法に過ぎないと僕は思う」

 この気づきは、今の相方・しずちゃんとの関係にもしっかりと生かされている。

 漫才で、しずちゃんの声が小さすぎてお客さんに聞こえなかったときは、「声を張れ!」と叱るのではなく、「こんなに面白いこと言ってるのに、伝わらないなんてもったいないよね」と諭した。その後、しずちゃんは、少しでも声が出せるように自主的に弾き語りを始めたという。

「最近、改めて思うのは、外からいくらうるさく言っても、人にやる気を起こさせることはできないってこと。本当に自分がやりたいと思わなければ、人って動かないんですね」

 言い訳をしてサボろうとする態度に苛立ったり、一人だけ売れていくことに嫉妬したりもした。でも今は、しずちゃんと漫才できることが、純粋に楽しい。

「自分たちが面白いと思うことをやって、お客さんが笑ってくれる。天才たちが当たり前にやっていることのスタートラインに、ようやく僕らも立てたような気がします」

(取材・文/澤田憲)