■前橋育英は「初出場初優勝」の快挙達成

 佐賀北ほどのインパクトはなかったものの、2013年に夏の甲子園で初出場初優勝を果たした前橋育英(群馬)もダークホース的な存在だったと言えるだろう。それまで選抜に1度出場したことはあったものの初戦敗退。同大会では春夏連覇を目指す浦和学院(埼玉)、前年の明治神宮野球大会の覇者である仙台育英(宮城)や常連校の大阪桐蔭(大阪)、明徳義塾(高知)、横浜(神奈川)、常総学院(茨城)といったチームが有力視されており、前橋育英を優勝候補に挙げていたマスコミは皆無だった。

 そんなチームを勢いづけたのは2年生エースの高橋光成(西武)だった。初戦の岩国商(山口)戦で9者連続を含む13奪三振で完封すると、2回戦でも樟南(鹿児島)をわずか5安打に抑えて連続シャットアウト。3回戦では優勝候補の横浜を相手に打線が7点を奪い、準々決勝に進出を果たす。

 そして優勝への最大のヤマ場は続く常総学院戦だった。3試合を一人で投げ抜いた高橋は先発を回避し、同じ2年生の喜多川省吾(中央大)が先発するも2回に2点を奪われ、打線も常総学院エース・飯田晴海(新日鐵住金鹿島)の前に沈黙。しかし9回に飯田が脚の痙攣でマウンドを降りると流れが変わる。

 ツーアウトランナー無しから5番の小川駿輝がセカンドのエラーで出塁すると、続く板垣文哉の長打で一気に同点。そして延長10回には3番・土谷恵介(鷺宮製作所)がサヨナラタイムリーを放って試合を決めた。続く準決勝・日大山形戦(山形)、決勝・延岡学園戦(宮崎)は高橋が投げ抜き、群馬県勢では1999年の桐生第一以来となる優勝の栄冠をつかみ取った。この後、前橋育英は関東でも有数の強豪となり、今年の夏も群馬大会3連覇を果たして甲子園に出場する。

 佐賀北、前橋育英と同様に甲子園初勝利から一気に頂点に上り詰め、その後一時代を築いたのが2004年の駒大苫小牧(南北海道)だ。前年の2003年は1回戦で倉敷工(岡山)を相手に4回まで8-0でリードしながら降雨ノーゲームとなり、翌日は2-5で敗戦。この悔しさからチームは強さを身につけ、2004年も連続出場を果たしたが、決して前評判の高いチームではなかった。

 しかし、3回戦で日大三(西東京)に7-6で打ち勝つと、準々決勝では横浜のエース涌井秀章(ロッテ)を打ち崩して6-1と快勝。準決勝では東海大甲府(山梨)から10点、決勝では春夏連覇を狙った済美(愛媛)から13点を奪う猛打を見せ、北の大地に初となる優勝旗をもたらすこととなった。駒大苫小牧は翌年も田中将大(ヤンキース)らの強力投手陣を擁して夏を連覇。2006年は三連覇こそ逃して準優勝に終わったものの、決勝で早稲田実(西東京)と引き分け再試合を演じ、高校野球の長い歴史でも記憶に残るチームとなった。ちなみに現在のチームは初優勝の時のキャプテンである佐々木孝介が監督を務めており、今年の春は選抜出場を果たしている。

 高校野球も情報化と有望選手のスカウティングが進み、各地区でも強豪校が固定されてきている。しかし今年の地方大会では2年前まで10年連続初戦敗退していた白山(三重)が甲子園初出場をつかんだように、一気に頂点を狙うチームは少ないながらも出現しており、それがまた、高校野球の醍醐味ともいえる。今後もここで紹介したような、全国の頂点をつかむ“ダークホース”が登場することを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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