前評判を覆し優勝を果たした佐賀北ナイン (c)朝日新聞社
前評判を覆し優勝を果たした佐賀北ナイン (c)朝日新聞社

 前評判が低かったチームが優勝候補を倒す。いわゆる番狂わせ、最近ではジャイアントキリングとも呼ばれる試合はスポーツの醍醐味の一つであることは間違いない。“判官びいき”という言葉が昔からあるように、日本では特に実力が劣ると見られるチームを応援することが多い。それは高校野球の世界でも如実に表れており、劣勢のチームが反撃すると甲子園全体がそちらの応援に回るという光景もよく見られる。そこで今回は、そのような甲子園を沸かせた歴代のダークホースチームたちを紹介する。

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■のちにプロ入りする選手が率いた強豪校を次々に撃破した佐賀北

 近年最も世間を驚かせた夏の甲子園の優勝校となると2007年の佐賀北(佐賀)になるだろう。甲子園への出場はこの年で2回目。優勝候補どころか1回勝てるかどうかというのが大会前の評価だった。開会式直後の開幕ゲームで中村悠平(ヤクルト・当時2年)のいた福井商(福井)を2-0で下して甲子園初勝利を挙げたが、この段階でもまだ佐賀北の優勝を予想した人はいなかっただろう。

 甲子園の流れをつかみ始めたのは2回戦の宇治山田商(三重)戦からだ。現在プロで活躍する中井大介(巨人)と翌年春の選抜で153キロをマークする平生拓也(元西濃運輸)の二枚看板を擁するチームとの延長15回引き分け再試合を制し、この頃から打線が力強さを発揮し始める。そして、その勢いが本物になったのが準々決勝の帝京(東東京)戦だ。杉谷拳士(日本ハム・当時2年)、中村晃(ソフトバンク)を中心とした強力打線を相手に再三のピンチを凌ぎ、延長13回サヨナラ勝利をおさめたのだ。また準決勝では馬場将史、久保貴大の必勝リレーで長崎日大(長崎)を完封。そして決勝では8回裏に副島浩史が野村祐輔(広島)から大逆転の満塁ホームランを放ち、“がばい旋風”は完結を迎えた。

 佐賀北の大きな勝因の一つが一人の投手に頼らなかったこと。決勝までの7試合全てを馬場から久保へのリレーで勝ち上がっており、大会終盤でも二人の疲労の色は濃くなかった。もうひとつは2回戦で引き分け再試合という経験をしたこと。1点取られたらサヨナラ負けという試合を経験したことでその後の帝京戦、広陵戦でも守備が破綻することはなかった。そして最後は、やはり甲子園の大観衆を味方につけたことが大きかったのではないだろうか。決勝戦で副島が放ったホームランのボールは、真ん中高めに吸い込まれるように入っていったように見えた。ちなみにエースの久保は昨年夏から母校である佐賀北の監督に就任。劇的なホームランを放った副島は今年から唐津工(佐賀)の副部長となり、指導者として第二の“がばい旋風”を巻き起こすべく奮闘している。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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