最も一般的なのは、子宮頸がんです。子宮頸がんのほぼ100%は高リスク型HPVが原因です。子宮頸がんは、20代後半から40代前半の女性が発症しやすく、日本では毎年1万人が罹患し、約3000人が死亡していると推定されています。母親が幼い子どもを残して亡くなっていることから、「マザーキラー」とも呼ばれています。

 ところが、子宮頸がんだけでなく、ほかのがんも、HPV感染が関連していることがわかってきました。中咽頭がんはその一つです。オーラルセックスを介して、喉の粘膜細胞に感染したHPVが周辺の細胞をがん化させるのです。

 アメリカ疾病管理センター(CDC)が2011年から14年のデータ解析を行ったところ、口腔部のHPVの罹患率は、18~69歳の成人で7.3%であり、男性で11.5%、女性で3.3%でした。また。高リスク型の口腔部HPVの罹患率は、18~69歳の成人で4.0%であり、男性で6.8%、女性で1.2%でした。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのCatherine H Mercer医師らの2010年から12年の調査によると、イギリスにおけるオーラルセックスの頻度は、25歳から34歳の女性では79.7%、男性では80.0%。Megan Scudellari氏は、Nature誌において、オーラルセックスを介することによって、HPV陽性の頭頸部がんが近年急増しており、1985年の16%から2025年には90%にまで達すると推定されている、と述べているのです。

 ほかにも、膣がんや外陰がん、肛門がんや陰茎がんもHPV感染が関連していることがわかってきました。HPVワクチンを接種することは、パートナーへHPVを感染させないだけでなく、男性もHPV感染による頭頸部がんや肛門がんなどHPVに関連したがんを予防できるメリットがあるのです。

 HPVワクチンの有効性は、世界的にみとめられています。2018年5月、非営利組織コクラン(本部イギリス)はさまざまな臨床試験の評価結果として「子宮頸(けい)がんの前段階の予防効果には高い確実性がある」との見解を公表しました。2016年に米国疾病予防管理センターは、米国でHPVワクチン接種開始から6年間で、米国の若年女性のHPV感染率が大幅に低下した(14〜19歳の女性は64%、20〜24歳の女性は34%もHPV感染率が低下)ことを報告しています。

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子宮頸がん発症率が増加するのでは