●ネット世論に信憑性はあるのか

 果たして、このようにごく少ない人たちの意見は、社会全体の意見をどれほど反映しているといえるだろうか?

 もちろん、少数意見だからといって「社会の意見を反映していない」とは限らない。直接訪問や電話などの手段を使った通常の世論調査であっても、実際に答えている人は数千人程度の規模である。

 しかし、炎上の生み出すネット世論には、通常の世論とは大きく異なる特徴がある。それは、ネット世論が極めて能動的に発信されているという点だ。

 通常の世論調査では、訪問・電話いずれであっても、基本的に「聞かれたから答える」、いわば「受動的な発信」である。例えば、政党支持率の調査であれば、電話で聞かれたから、あえて自分の支持政党を答える。

 その一方で、ネットでは、「発信したい人が発信する」という極めて「能動的な発信」に基づいている。発信したいと思わない人は、例え自分の考えを持っていたとしても発信しない。発信したいという思いが強ければ強いほど、一度ならず何度も同じ情報を発信して、その声が大きくなる。

 つまり、ごくわずかの人が形成している炎上によるネット世論だが、その中にさらに大きな偏りがあるのだ。

 加えて、炎上を恐れる人たちが情報発信を控える「表現の萎縮」の偏りもあり、極端な意見ばかりがネットでは目立つようになっている。このように形成された炎上によるネット世論が、社会全体の意見分布と一致しているとは考えにくい。

 炎上ではないが、私が2018年に約3000人を対象に行ったネットの投稿行動に関する調査分析結果がある。

 この調査は、ネット言論の意見分布を検証するため、1つの話題――ここでは「憲法改正」について取り上げ、執り行ったものである。日本における憲法改正について、「非常に賛成」~「絶対に反対」の7段階で評価してもらったところ、「賛成とも反対ともいえない」という中庸的な人が最も多く、35%(3人に1人程度)となった。極端な意見の人は人数が少なかった(「非常に賛成」「絶対に反対」いずれも7%)。

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社会の意見分布とネット上の意見分布はまったく逆?