インターネット上でのコミュニケーションをめぐるトラブルや事件が絶えない。

 最近では、あるITセミナー講師が、ネット上でのやりとりをきっかけに、面識のなかった男に突然刺殺されるという衝撃的な事件が起こった。また、今も被害が続く西日本豪雨では、災害に関連したソーシャルメディアでの発信に対して、「不謹慎だ」「偽善だ」などといった、いわゆる「不謹慎狩り」と呼ばれる炎上が頻発している。

 これらは、本人が適切な言動を選んでいれば、未然に防げたものだろうか? それとも、こうしたトラブルを避けるために、ネットには近づかず、ソーシャルメディアでの発信を極力控えるべきなのだろうか。

『炎上とクチコミの経済学』の著者である山口真一氏は、ソーシャルメディアを通して誰もが自由に情報発信できるようになった現代を、「一億総メディア」時代と捉える。一億総メディア時代には、情報の広がりや反応のし方が複雑化しており、従来の経験則だけでは適切にふるまうことが難しくなっているという。

 山口氏は、個人の感覚では捉えがたい、炎上やクチコミといったネット上の情報拡散メカニズムを計量経済学の手法を用いて実証的に分析したうえで、トラブルの予防・対処方法や、ソーシャルメディアを効果的に活用する方法を説く。そこで、「炎上」の実態について語ってもらった。

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●少数のヘビーな参加者が炎上を起こしている

 炎上やクチコミなどのネット世論は、人々、企業、そして実社会に大きな影響を与えるようになってきている。ひとたび炎上が始まると、対象への攻撃が連日行われるようになり、ネットユーザ総出で叩かれているような印象を受ける。しかし、実際にどれくらいの人の意見がそこに反映されているのかをご存じだろうか。

 私たちが2014年に行った、約2万人を対象とした調査分析(※調査は慶應義塾大学の田中辰雄氏と共に行った。2014年の調査は多摩大学情報社会学研究所で、2016年は国際大学グローバル・コミュニケーション・センターで執り行われた)の結果では、炎上について、過去全期間をとおして1度でも書き込んだことのある人は、ネットユーザの1.1%にとどまった。

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現役で炎上に書き込んでいるのは…