■日本球界にはない先進的な取り組み

 既存の日本球界のルールや慣習、組織ではできない先進的な取り組みでもある。他の独立リーグやアマ組織との折り合いがついていないという現実の中で、同リーグからはNPB球団からドラフト指名を受ける選手も生まれている。

 同リーグの選手たちは無給。それでも、野球をやりたい。他の独立リーグや社会人チームにも採用されなかった男たちが、このリーグの門を叩く。

「プロを目指す子も来ます。夢を諦めるために来る子もいます。その子にあった指導、行動をします。9割5分の選手が、僕らのチームで野球を終えることになると思う。この球団、リーグに来て、よかったと思えるようにやりたい」

 そう語る大西は、いわば厳しい戦いを勝ち抜いてきた、野球エリートの一人だ。名門と呼ばれるチームで、敗れ去っていたライバルたちも、何人も見てきた。プロになること、さらにその世界で生き残る難しさは、誰よりも分かっている。それでも、この“底辺の男たち”に手を差し伸べるという難しいミッションに、大西はあえて、取り組もうとしているのだ。堺市内で行われた就任会見で、最初に掲げた方針は「選手を裏切らない指導者」だった。

「決めているのは、選手を裏切らないこと。三振しようがエラーしようが、何かあったら僕の責任。グラウンドでは、選手はボールだけ追いかけてほしい。ど素人の指導者で、新チームです。一緒に成長できたらいいですね」

 最後の可能性を求めてやってくる。無給でも構わない。とにかく、野球をやるチャンスが欲しい。夢をかける選手たちに、とことん付き合ってやる。その大西の覚悟は、同級生が今、全身で表現している「諦めない姿勢」でもある。

「松坂、平石。まだユニホームを着ている姿を見ているし、ユニホームを着られる喜びがあります。特に松坂、頑張っていますよね。あいつから、ホームランを打つような選手を作りたいですし、楽天の平石を楽にできるような選手を送り込みたいですね」

 大西は現役を引退後、大阪・心斎橋に焼き肉店「笑ぎゅう」を開店。6年目を迎えた同店は人気店で、経営も順調だ。

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野球監督と焼き肉屋の2足のわらじ