よく考えてみれば、すべての店が禁煙になったとき、喫煙者が外での飲食を大きく減らして家に閉じこもると考えるのは現実的な仮定ではない。完全禁煙で客が増える効果と多少減るかもしれない効果とはほぼ相殺されるだろうと考える方が、はるかに「常識的」なのではないだろうか。

 飲食店への経済的影響については、WHOの国際がん研究機関がすでに分析をしている。その調査の大多数では、売り上げは減っていなかった。日本の研究は遅れているが、前述した産業医科大の調査の他にも、愛知県の2011年の調査では、自主的に全面禁煙にした9店舗中8店舗で売り上げは減少しなかったという結果が出ている。もちろん、すべての店が禁煙になれば、なおさら売り上げ減のリスクはないということだ。

 今からでも遅くはない。「例外なき屋内完全禁煙」の受動喫煙防止法案を野党が共同で提出し、街宣活動などでPRすれば、国民の大多数は支持するだろう。利権と癒着する自公安倍法案と子供、妊婦、がん患者、心臓の持病を抱える人、従業員など、社会の弱い立場にある人々や80%の非喫煙者に寄り添う野党案のどちらに賛成するのか。それを国民に問いかければ、終盤国会での与野党対決法案となることは確実だ。国民のための「対案を出す野党」「政策を議論する国会」をアピールする機会にもなり、今、一番大事な、政治への信頼を取り戻すことにもつながるはずだ。また、この法案なら、維新や希望もむしろ積極的に共闘に参加できるだろう。最近、軍事優先主義か平和主義かという対立軸の陰にかすんでしまった感のあるもう一つの対立軸、「既得権に取り込まれた守旧派」自公対「既得権と闘う改革派」野党という図式が復活し、野党がもう一度安倍政権と闘う新たな「土俵」を作る道になると思うのだが、いかがだろうか。(文/古賀茂明

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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