それから約2カ月後、同年7月2日の広島vs巨人(札幌)で、今度は審判団が投手交代時のルールを勘違いして、交代を却下するというアクシデントが起きた。

 0対1で迎えた7回、広島は1死一、三塁で投手の大野豊に打順が回ってきた。巨人・高橋良昌投手コーチがマウンドに向かう。この時点で、長嶋茂雄監督は代打も想定して、「もう少し様子を見る」つもりだった。

 ところが、高橋コーチは、長嶋監督が西本聖から鹿取義隆への交代を告げるよりも早く、一塁線を踏み越えてベンチに戻ってきてしまった。これにより、同年から改正された新ルール(野球規則8.06)で交代は認められなくなり、西本は続投せざるを得なくなった。そして2死後、高橋慶彦に同点タイムリーを許したのが響き、巨人は痛恨の逆転負けを喫した。

 実は、長嶋監督は同年4月12日の広島戦(後楽園)でも、同様の“幻の交代劇”で永本裕章が続投する事態を招き、同点を許していた。「一度ならず二度までも……」とG党はため息をついたが、その後、ミスったのは審判のほうだったという思わぬ新事実が明らかになる。

 高橋コーチがマウンドにいるときに、広島が代打・内田順三を告げていたのだ。代打が送られた場合は投手交代が認められるのに、審判団はこの特例事項をうっかり忘れ、山本文男一塁塁審が巨人ベンチに足を運んで「もう代えられませんよ」と念押しまでしていた。

 結果的にこれが勝敗を分けたとあって、長嶋監督は「審判が交代はできないと言ったので、そのまま西本を続投させた。いずれにしても投手に対しルールが複雑で厳しすぎるので、考えてもらわなければ困る」とオカンムリだった。

 試合中に審判が自らの誤審を認めるという、あってはならない事態が起きたのが、1997年6月7日の西武vsロッテ(千葉マリン)

 西武の先発・渡辺久信は4回、キャリオンにタイムリー二塁打を許し、1対1の同点。なおも2死満塁で、松本尚樹を2ストライクと追い込んだ後の3球目、真ん中にストレートがズバッと決まる。

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「間違えました。私の判定ミス」