2018年シーズンが開幕して約1カ月が経ち、連日熱戦が繰り広げられているが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「審判も人間だった編」だ。
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公正中立であるべき審判が、巨人の時間切れ引き分け狙いの遅延行為に関与したとして問題になったのが、1980年4月24日のヤクルト戦(小倉)。
2対2で迎えた9回裏、巨人は2死無走者で、代打・山本功児が起用されたが、直後、柏木敏夫球審がつかつかとベンチ前に歩み寄り、「おい、コージ。時間がちょっと余っているので、バットをよく振っておいてくれよ」と声をかけた。
なぜこんなことを言ったのか? 実は、試合時間はこの時点で2時間57分を過ぎており、あと2分30秒でタイムアップの3時間になろうとしていた。延長戦回避目的の引き延ばし策を示唆したのだ。
はたして、ベンチ前でウロウロして時間を稼いでから打席に立った山本は、左飛に倒れ、1分オーバーで目論見どおり時間切れ引き分けになった。
ところが、試合終了間際とあって、ベンチ横のカメラマン席には多数の報道陣が待機中で、遅延行為を促す柏木球審の声がハッキリ聞こえていた。
試合後、柏木球審は「延長戦なんかやるのはアホらしい。杓子定規にものを考えなさんな。オレは省エネに協力してやったんだ。あの発言の真意は、“まだ時間がある”というニュアンスだ。こんなこと審判の間では常識だ」と弁明した。
この発言は鈴木龍二セ・リーグ会長を呆れさせた。「これが本当ならとんでもない間違いだ。審判はジャッジするのが職務であって、プレーに対して援助の言葉をかけるなんて、考えられないことだ。たとえ遅延が目的ではないにせよ、時間切れ寸前に打者に話しかけ、誤解を招いたことは、審判としてあるまじき行為だ。また、試合後の報道陣との対応も、冷静さを欠いていたと言える」
かくして、柏木審判はセリーグでは初の出場停止3日の処分を受けた。遅延行為の良し悪しは別として、わざわざ口に出さなくても、ベンチや選手たちは先刻承知のはず。まさに「一言多いと損をする」結果となった。