近鉄・マネー(当時)(c)朝日新聞社
近鉄・マネー(当時)(c)朝日新聞社

 2018年シーズンが開幕して半月が経過したプロ野球だが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「お騒がせ途中帰国編」だ。

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 外国人選手のシーズン途中帰国にはさまざまな理由があるが、「住居にゴキブリが出る」という前代未聞の理由で退団帰国してしまったのが、1984年に近鉄に入団したマネーだ。

 メジャー通算176本塁打と長打力が売りのマネーは、開幕8試合目から不動の4番に座り、簑田浩二(阪急)と並ぶリーグトップの8本塁打を記録した。

 ところが、これからエンジン全開と期待された4月下旬になって、突然退団帰国を申し出てきた。

 球団が用意した神戸市内の中古マンションの不便さや球場のお粗末過ぎる更衣室などが理由だった。

 アメリカにいたとき、マネーは常に満員の巨人戦の様子がテレビで紹介されたのを見て、希望を持って来日したが、近鉄の本拠地・藤井寺球場、準本拠地の日生球場は老朽化して、設備・環境も劣悪。加えて、当時のパ・リーグは観客動員も少なく、期待は大きく裏切られた。

 また、一緒に来日した夫人や長女も、近所にアメリカ人や英語を話せる住民がほとんどいないことや住居に大量のゴキブリが出ることなどから、ホームシックでノイローゼ状態に陥っていた。

「家族だけでもアメリカに帰したら、余計に心配事が増える。向こうに帰っても野球はやらない。野球より家族の幸福を第一に考えた」(マネー)

 庭付きの広い住居への移転、自宅から球場まで車で送迎などの改善条件で慰留に努めてきた球団も、そこまで言われてはなすすべもなく、5月7日に退団決定。近鉄は開幕から1カ月ちょっとで頼れる主砲を失うことになったが、話はこれだけでは終わらなかった。

 マネーを慕って来日したもう一人の助っ人・デュランも同じ待遇面の悪さと郷里で独り暮らしの母親が体調を崩したことを理由に同14日、帰国。そのまま退団となった。

 だが、近鉄はツイていた。6月に緊急補強したデービスが打率3割1分、18本塁打、89打点の活躍でマネーの穴を埋めたからだ。

 そのデービスも1988年シーズン中に大麻不法所持で解雇されるが、代役として緊急補強され、大ブレイクしたのが、当時中日の2軍でくすぶっていたブライアント。近鉄の助っ人運の強さを物語るエピソードである。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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