王貞治も「王シフト」という特別な守備シフトを敷かれた (c)朝日新聞社
王貞治も「王シフト」という特別な守備シフトを敷かれた (c)朝日新聞社
メジャーリーグで見られる極端な守備シフト(写真・Getty images)
メジャーリーグで見られる極端な守備シフト(写真・Getty images)

 スポーツ、ゲーム、ギャンブル……。特に対戦型の勝負事において「駆け引き」は結果を左右する重要なファクターだ。それは野球も例外ではなく、メジャーリーグで勢力を拡大している「極端な守備シフト」もまた、打者への心理的プレッシャーを誘発するための駆け引きの一種と言ってもいいだろう。

【写真】これが極端な守備シフトだ

 もっとも、ここ10年ほどで守備シフトが珍しくなくなった背景には、膨大なデータ収集が可能になったこと、その分析が細分化されてきたという統計的な根拠がある。「あの打者はいつも引っ張る印象だから、そちらの守備を厚くしよう」といった曖昧な思い込みレベルの話ではない。

 そして、実際に右寄りのシフトを敷かれることが多かった左打ちの元レッドソックス主砲デービッド・オルティスは、シフトで対応されなかった時よりも打率を落としたという結果も出ている。全てはデータに基づいており、そうした情報処理を重視するチーム、首脳陣が増えてきたという証でもある。

 冒頭で「守備シフトは駆け引き」と述べたが、では「打者が守備側の思惑に乗らず、手薄になった方向へ打つようにすればいいではないか」という指摘はもちろんあるだろう。実際、日本ではオルティス同様に「王シフト」で右翼方向を固められた王貞治が三塁側へバントし、それが結果として二塁打になったというエピソードもある。

 だが、これはメジャーリーグでは受け入れられない。そもそもシフトを敷かれるような強打者は自分の打撃に確固たる自信を持っており、本来のバッティングを捨ててまでシフトの裏をかくことはまずやらない。策を弄されても実力で踏みつぶす。これがメジャーの強打者のメンタルだからだ。優劣の話ではない。文化の違いだ。

 そして、この文化の違いこそが、日本でメジャーリーグのような極端な守備シフトが浸透しない要因でもある。シフトを敷くということは、本来なら凡打に終わった当たりがセーフになるというリスクを抱えること。メジャーではこうした裏目でも「今回はデータ的に低い目が出ただけ」と割り切ってシフトを敷いている(少なくともデータ担当者や監督などはそうだ)。だが、日本では、裏目に出た場合のメンタル的なダメージを心配する傾向が強いようだ。

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流行らないのは“文化の違い”?