たとえば、人口の減少や高齢化は確実にやってくる事象なので、それらを想定した都市デザインをする必要がある。また、「マス(集団)から個へ」という時代の流れも避けられない。鈴木氏は言う。

「これからは、一人ひとりが個別の意見を持つ時代になります。何か巨大な構造物をつくって、みんなが一堂に会するというコンセプトではなく、コンパクトなものをいくつもちりばめるような思想で都市を設計することが必要」

 生活者は自分が好む場にでかけ、自分に合った使い方を選択する。昔は、市民の大多数に支持される都市デザインが求められたが、いまは違う。

「一つの課題に対して一つの解決策だけで対応しようとするのではなく、こちらで決めた価値を提供するのでもなく、個々人が自由に解釈したり工夫して使えたりする仕掛けが必要になる」

 五輪後の東京は、徐々に人口が減少し、いま以上に空き家問題が深刻化するだろう。しかし、見方を変えれば、「ポケットパーク」(小規模な公園)のようなコンパクトなデザインに適した土地がたくさん生まれてくる可能性もある。

 多様な人が集まると、コミュニケーションの重要性も増す。幕張ベイタウンやHAT神戸は、ロの字型の建物配置で中に広場を設置したことで、コミュニティー形成を促進させた。五輪後の東京には、このように人と人との出会い・接点を意図的につくりだすデザインが必要だろう。

 東京がまだ「江戸」と呼ばれていた時代、八代将軍徳川吉宗は、江戸の街に桜を植えて誰もが楽しめる名所をつくった。王子の飛鳥山、品川の御殿山、向島の墨堤などは、その名残である。五輪後の都市デザインも、ぜひレガシーとして後世に残るものとしてほしいものである。(文/若林邦秀)