たむらのビジネスが軌道に乗ったのは、彼が「気遣い」のプロフェッショナルだったからだ。芸能人の店だからと安易にタレントパワーに頼らず、客の気持ちを思いやることを徹底したのが現在の成功につながった。また、自分自身が普段から芸人仲間に慕われているからこそ、自身の焼肉店も彼らから愛のあるイジりを受けられたのだ。

 たむら自身も、ふんどし姿で「陣内、死ね!」と同期で先に売れた陣内智則に悪態をつくネタでプチブレークしたことがある。これが大阪の番組で人気を呼び、全国区に出てからは「東京で売れてる芸人、全員死ね!」というフレーズに変わった。「死ね」というどぎつい言葉が使われているこのネタは、たむらを面白がる周囲の芸人たちの温かい目線があって初めて成立するものだ。いわば、このネタは個人芸であると同時に団体芸でもあるのだ。

 今回、仮想通貨の話題で何かとたむらの名前が出てくるのも、彼がいかに芸人仲間に慕われているかを示すものだろう。会社経営、イベントプロデュースなど幅広い活動を手がけるたむらは「ポスト紳助」との呼び声も高い。ただ、「面白くない」「焼肉がまずい」などと公然とイジられることすら許容している彼の全方位的な愛されぶりは、すでに紳助以上かもしれない。仮想通貨がどんなに暴落しても、たむらの評判はそうそう簡単には下がらないのだ。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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