一方で、中日が強化すべき最大のポイントは捕手だった。谷繁元信(前監督)の引退後、正捕手が固定できず、若手の台頭も遅れている。現場や編成部門では、昨夏の甲子園で一大会6本塁打の新記録を樹立した広陵高の中村奨成の指名を熱望する声が高まっていた。

 経営、営業サイドの思惑と、現場の要請との乖離はプロスポーツの世界ではよくあることだ。その両サイドの綱引きの末、昨秋のドラフト会議では中村の指名に乗り出した。だが、競合、抽選の末、中村の地元・広島が交渉権を獲得したため、中日はFAでの捕手補強に方針転換。日本ハムの捕手で、岐阜県出身のご当地選手・大野奨太の獲得には成功した。当面の弱点はこれでカバーできる。そして、人気回復という観点に立てば、そのアピール度が薄い現状だっただけに、中日にとって松坂はまさしく待望久しかった「スター候補」なのは間違いない。

 球団が人気回復に躍起なのは、球団を取り巻く名古屋の経済環境が大きな変化の渦の中にあることも一因になっている。名古屋は現在、2027年開通予定の「リニア新幹線」に伴い、再開発が急ピッチで進んでいる。東京と名古屋をわずか40分でつなぐ輸送路は人や物の流れを激変させる可能性があり、その拠点となる名古屋駅を中心とした「名駅」と呼ばれる地域では将来を見越した大型投資が続々と行われており、駅前には最新鋭の大型ビルやブランド店、ホテルなどがずらりと建ち並んでいる。

 中日の親会社・中日新聞社も、栄にある「中日ビル」を建て替え、地域再開発の起爆剤にしようとしている。ドラゴンズの球団事務所も入っている現在の中日ビルは2019年3月末で閉館。2020年代半ばの完成を目指しているのは、もちろんリニア開通をにらんだ名古屋経済の活性化を見込んだものだ。かつては名古屋一の繁華街と言われ、ビジネスの中心地でもある栄だが、大型開発が続く名駅と比べると再開発への動きは遅く、中日ビルの建て替えに関してもその効果を疑問視する地元の声もある。名古屋が新たな時代を迎えようとしている中で、グループのシンボル的存在であるドラゴンズの低迷はグループ全体の“将来イメージ”においてマイナスにしかならないのだ。

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“逆境ナンバー”で復活を目指す松坂