背景にはスマホなどの録音機能が発達し、密室でのやりとりが簡単に外部へ流出するようになったことがある。熱心な指導のあまりキレたところを録音され、「パワハラだ」と訴え出られでもしたら、部下の改善どころか、自分が「マネジメント能力に問題あり」の烙印を押されてしまう。現代の職場での感情的な説教やダメ出しは、リスクがあまりにも大きいのだ。

 一方的な説教やダメ出しでは効果が薄いと言われ、2000年代はじめごろから注目されるようになったのが、「コーチング」という手法だ。問いかけによって部下の中にある答えを引き出し、目的達成を支援するコーチングだが、「コーチング一辺倒では現場の指導、育成はうまくいかない」と、中原氏は指摘する。この指摘は会社に入りたての若手を指導する場面を想定すると、理解しやすい。若手社員は社会経験に乏しく、会社全体を俯瞰するような視点や、中長期的な時間感覚をもちにくい。自分の中から答えを見いだそうにも、狭い視野に陥りがちだ。そういう場合はコーチングよりも、一方的に知識や技術を伝える「ティーチング」の方が機能しやすい。

 現在注目を集めるフィードバックは、「コーチング」と「ティーチング」を上手にミックスした手法といえる。中原氏はフィードバックが、耳の痛いことであっても、部下の行動や成果に対して情報・結果を伝える「情報通知」と、部下自身に業務や行動を振り返らせ、今後の目標設定や行動計画立案の支援をする「立て直し」の、2つの働きかけで成り立つと説く。情報通知では主にティーチングを用い、立て直しでは主にコーチングでアプローチするべきだという。

 年上部下や今どきの若手に耳の痛いことも伝え、彼らの仕事を立て直すフィードバック。説教やダメ出し、コーチングに比べて、いかにいま必要な手法であるのかが伝わっただろうか。(五嶋正風)