「難治がん」の記者が貴乃花の白星を祈った夜… 「遺体なき殺人」特ダネの裏話

書かずに死ねるか――「難治がん」と闘う記者

がん

2017/12/09 16:00

 おそらく他社はまだ気づいていないが、鑑定結果を待っているうちに察知して、デリケートな事情を知らずに中途半端に書き飛ばしてくるかもしれない。その瞬間、私の特ダネはなくなる。しかも、その報道が後から鑑定結果で裏づけられれば、完敗である。情報を抱え込んだまま特ダネにできず、みすみす他社の後塵(こうじん)を拝する。無能の烙印を押されても仕方ない大失態だ。

 ふと、捜査幹部と交渉できないかという考えが頭をよぎった。自分はこれだけ知っている。だが事件がつぶれては困るから、今は書かないと約束する。その代わりにもう大丈夫という時がきたらヒントをくれないか――。だが、すぐにあきらめた。幹部がとぼける顔が目に浮かぶようだった。

 もう一つの殺人事件なんて聞いたことがない。書きたければ書けばいい。ただ、仮にそんなものがあったとして、あなたの記事で逮捕できなくなったり、あなたが訴えられたりしたら、それはあなたの責任だ。

 私に残されているのは、鑑定結果が出たタイミングとその中身を素早くつかむ、それだけだった。他社が気づかないことを願いながら、記事にするのを我慢する。書ける範囲で原稿を用意しておき、警察の動きに神経を尖らせる。そんな日々が数カ月は続いただろうか。

 Xデーは突然、訪れた。

 ある金曜日の夕方。いつものように県警庁舎をぶらついていると、1人の幹部が部下から報告を受けるところに居合わせた。内容は聞こえない。何度も見てきた風景だ。

 ただ、この日は少し様子が違った。報告前に部下がソファに座ったこちらを振り返り、チラッと見た。私の目を気にしている、と感じた。

 老眼気味の幹部はふだん椅子にもたれて「前へならえ」のように両手を伸ばし、書類を目から離して読む癖がある。まゆはゆったり「八の字」型だ。

 ところが、その時は報告書を受け取るや、ぐっと机に突っ伏すように身を乗り出して読みだした。「逆八の字」とでもいうのか、まゆ尻を釣り上げて目を見開き、ふだんと正反対に顔を書類に近づけた。


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貴乃花の白星を祈った理由とは…

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