こうしたテレビ局による自主規制の最も厄介なところは、確固たる規定や線引きがないところだという。

 知人の番組制作会社のスタッフいわく、「ある程度の共通認識はありますが、細かい話になると各局によって、もっと言ってしまえば各番組のプロデューサーによって線引きがバラバラなんです。それに多くのプロデューサーはリスクをとりたがらないので、ディレクターなど現場の人間からちょっと過激な企画や演出について相談された時点で上の意向を忖度し、『やめた方が良い』といった後ろ向きの判断をしやすい傾向があります。番組で何か問題が起きたら、自分も責任をとらなければならなくなりますからね」とのこと。

 もちろん、こうしたテレビ局による自主規制の背景には、視聴者からのクレームの存在がある。
 
 近年ではクレームの矛先は番組を放送するテレビ局やBPOだけでなく、番組のCMスポンサー企業にまで向けられるケースもあり、各局とも視聴者からのクレームに対してはかなり過敏になっている。

 的を射たクレームもある一方、中にはお笑い芸人がちょっと服を脱いだり、ツッコミの役割として頭を叩いたりしただけで「不快だ」、「暴力的だ」といった抗議がテレビ局に寄せられることもある。

 こうした過剰とも思えるクレームに対応するのは大変だなと思うが、その被害が番組スポンサーにまで飛び火し、大手クライアント企業から「テレビと関わるのは面倒だ」と思われてしまうのが一番まずいということで、テレビ局としてもそれなりの対応を迫られる。

 その結果、バラエティー番組などで食べ物を扱う際には「この後、スタッフがおいしくいただきました」といった違和感アリアリのテロップがお約束となるような“怪奇現象”も起きている。
 
 一部の勘違いした“テレビ業界人”の視聴者に対する上から目線な態度や発言、「昔のように規制が緩かったら…」といった言い訳には辟易(へきえき)したこともあるが、今となってはちょっぴり同情してしまうくらいテレビ業界をとりまく環境は厳しいものになっているようだ。(三杉武)

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三杉武

三杉武

早稲田大学を卒業後、スポーツ紙の記者を経てフリーに転身し、記者時代に培った独自のネットワークを活かして芸能評論家として活動している。週刊誌やスポーツ紙、ニュースサイト等で芸能ニュースや芸能事象の解説を行っているほか、スクープも手掛ける。「AKB48選抜総選挙」では“論客(=公式評論家)”の一人とて約7年間にわたり総選挙の予想および解説を担当。日本の芸能文化全般を研究する「JAPAN芸能カルチャー研究所」の代表も務める。

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