萩大島船団丸代表の坪内知佳さん(撮影/写真部・馬場岳人)
萩大島船団丸代表の坪内知佳さん(撮影/写真部・馬場岳人)
萩大島船団丸の看板商品「鮮魚BOX」(撮影/岸本絢)
萩大島船団丸の看板商品「鮮魚BOX」(撮影/岸本絢)

 山口県の沖合に浮かぶ萩大島で、よそ者、24歳、シングルマザーでありながら、漁師たちを束ねて会社の社長になった女性がいる。事業成功までの波瀾万丈な道のりを描いた本、『荒くれ漁師をたばねる力』が発売されるなど、注目を集めるのが漁師集団「萩大島船団丸」代表・坪内知佳さんだ。

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 萩大島船団丸の看板商品である「鮮魚BOX」。今では日本全国の飲食店から注文が入る人気商品となったが、始めた当初は苦労の連続だったという。商売などしたことがない漁師たちの意識を変えた、坪内さんの作戦とは……。

*  *  *

 東京の蒲田駅にほど近い飲食店街の一角。朝どれ鮮魚と炭火焼きが評判の「居酒屋あんばら」に発泡スチロールの大箱が到着する。

「おー、待ってたぞ」

 料理長の宮沢喜彦さんが宅急便の配達員から箱を受け取った。ふたをあけると、今にも飛び跳ねそうな生きのいいあじとさばが並んでいる。いずれも昨日、萩大島船団丸の漁船が日本海でとってきたばかりのピカピカの魚たちである。

「船の上で生きたまま首をへし折って血抜きしてあるんですよ。だから目玉の新鮮さが違うでしょ。萩の瀬つきアジ(※回遊しないで瀬に居ついているアジ)はお客さんにも評判がいいんですよね。身が中トロみたいにやわらかくて、それでいて脂っこくない。これを目当てにやって来るお客さんもいますからね」と宮沢さんは目を細める。

 この大箱こそ萩大島船団丸が誇る自家出荷商品「鮮魚BOX」である。通常、魚は仲買や卸、小売店をへて届けられるのだが、萩大島船団丸の「鮮魚BOX」は漁師たち自ら箱詰めして、船の上から直接届く仕組みになっている。

 中間業者が入らない分、早く新鮮な魚を届けられる。漁師たちにとっては付加加価をつけた魚を高値で販売できるわけだ。

 萩大島では年々魚がとれなくなり、漁師たちは不安を抱えていた。激減する漁業の収入を補うため、考えられたビジネスモデルが漁師たちによる自家出荷だったのである。

 だが初めから「鮮魚BOX」がうまくいったわけではない。今から5年前、初めて代表の坪内知佳さんが『居酒屋あんばら』を訪れたときのことを宮沢さんは鮮明に覚えている。

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