府中刑務所内で刑務官の見守る中、ラジオの出張放送をする長谷川理沙さんとディレクターの岩松さん(撮影/新津勇樹)
府中刑務所内で刑務官の見守る中、ラジオの出張放送をする長谷川理沙さんとディレクターの岩松さん(撮影/新津勇樹)

「卒業したら、長野にいる奥さんとたくさん素敵な時間を過ごしてくださいね、曲は大事MANブラザーズバンドで、それが大事」

 優しく語りかけるようにメッセージを送るのは、調布FMのラジオDJ、長谷川理沙さんだ。なんと長谷川さんは、月に一度、東京都府中市にある府中刑務所の受刑者を相手にリクエスト曲を募り、一時間の生放送番組を担当している。府中刑務所といえば、いわゆる極道、薬、外国人がキーワードになる男性受刑者を収容する日本最大のマンモス刑務所(収容定員は2668人、実質収容受刑者は約2000人)だ。

 そんな巨大刑務所内で、月に一度、ディレクターの岩松真也さんとラジオ局から機材を直接持参し、刑務所内の講堂で出張生放送を行なっている。

 犯罪者の中でも、再犯者を収容する府中刑務所は、日本最大ということもあり、壁の中では厳しい警備体制が敷かれ、静寂と緊張感に包まれている。そんな一般社会と隔離された空間に、天使のような柔らかな声が響き渡る。一体なぜ、長谷川さんは刑務所内でラジオ番組をやることになったのか。

「きっかけは、府中刑務所で矯正指導日というのがあるのですが、更生教育の一環として何かできないかということで刑務所の方から地域のラジオ局である調布FMに、話があったんです。そこで当時、福祉関連の番組を担当していた私に話がきました」

 そう説明する長谷川さんだが、当時はまだ32歳。そんな彼女が相手にするのは、いわゆるヤクザなどの再犯者。一体、どんな言葉をかけたらいいか相当悩んだそうだ。

「まだ32歳の私にとっては、受刑者の人生が非常に重く感じたんです。私がどんな言葉をかけたらいいのか。自分に一体何が出来るのかと。とにかく我武者羅にぶつかるしかなかったんですよ」

 実際、番組スタート直後は、挑発的なメッセージもあったそうだ。

「姐御とか、姐さんって始まるようなメッセージで威嚇してくるようなものもありましたよ」

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