若かりし日の出川哲朗さん (c)朝日新聞社
若かりし日の出川哲朗さん (c)朝日新聞社

 出川哲朗といえば、かつては「女性に嫌われる芸人」の代表格だった。雑誌の「嫌いな男」「抱かれたくない男」ランキングでも常に上位をキープ。本人の話によると「砂に埋めたい男」ランキングで1位になったこともあるという。

 そんな出川に異変が起こった。「週刊女性」が主催する「抱かれたくない男」ランキングで、絶対王者である出川が首位から陥落してしまったのだ。出川と1票差で新たに1位に輝いたのはアンガールズの田中卓志だった。ブレークした当初は、「キモカワいい」と言われて女性ファンにも愛されていた田中が、いつのまにか単に「キモい」と言われるキャラクターになってしまった。田中の大躍進の結果、出川は惜しくも敗れてしまった。

 ただ、ここ数年、出川はタレントとして大幅にイメージを向上させている。「世界の果てまでイッテQ!」のロケ企画では、出るたびに大きな話題になっている。また、テレビ東京では4月からゴールデンタイムで「出川哲郎の充電させてもらえませんか?」という番組をスタートさせた。こちらも新番組でありながら継続的に高い視聴率を記録している。いまやテレビ界では空前の「出川ブーム」が起きていると言っても過言ではない。彼は自ら「抱かれたくない男」の汚名を返上しようとしているのだ。出川のイメージがここまで大きく変わったのはなぜだろうか。

 知らない人も多いかもしれないが、出川はもともと芸人ではなく俳優である。役者を志して横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)に入り、そこでウッチャンナンチャンの2人と出会った。卒業後、彼らと共に「劇団SHA.LA.LA」を立ち上げて、自らが座長となって会場の手配などあらゆる雑務をこなしていた。この時点での出川は、同期生をまとめて劇団を運営する兄貴分のような存在だったのだ。

 ウッチャンナンチャンの人気に火がつき、テレビの仕事が増えると、そこに出川も一緒に呼ばれるようになった。そして、あるとき、番組の企画でジェットコースターに乗せられた出川が、本気で怖がっている様子が面白いと評判になった。

 彼は役者を志していただけあって、もともと格好つけているところがある。普段は二枚目を気取っていて、自信満々に振る舞っているのに、ピンチに陥ると人目もはばからず泣き叫ぶ。そのギャップこそが、出川のリアクションが面白がられた最大の要因だと思う。いわば、お笑いで言うところの「フリがきいている」という状態だ。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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