●吉良上野介は官邸の誰か?

 忠臣蔵の話を出したので、それになぞらえてみれば、浅野内匠頭(前川氏)を切腹させようとしているのは、菅義偉官房長官と安倍総理ということだろう。時の将軍徳川綱吉というところだが、それ以前に文科省をいびり倒した吉良上野介に当たるのは経産官僚という見方もできる。

 私の古巣なので、今回登場している内閣府の藤原豊審議官(経産省から出向中)もよく知った仲だ。普段は、元気の良い人で、新しいことへのチャレンジ精神にあふれているという印象がある。

 官邸の意向と言えば、藤原氏が直接総理や官房長官から指示を受けていたとは考えにくい。おそらく今井尚哉総理秘書官(経産官僚)の意向を受けて、本意ではなかったかもしれないが、動いていたのであろう。

 経産官僚の中には、文科省を見下す雰囲気がある。彼らの持つイメージでは、文科省は、時代の流れに取り残されて、規制に頼って生きている古い役所だ。自分たちの方が一段優れているというあまり根拠のない意識も持っている。

 麻生太郎財務相など、獣医師会と癒着した族議員のことを恐れて、また、自分たちもその利権のおこぼれにあずかろうとしている文科省なんかの言うことは聞く必要がないと考えていたのかもしれない。

 こうした経産省全体に蔓延する日ごろの傲慢な意識に加え、官邸を支える最有力官庁になったという自負もあり、文科省が官邸の意向に逆らっていることに対して、見下すような強い調子で「総理のご意向」を葵の御紋のように振りかざしたとしても、まったく驚くことではない。

 こうした行為に対して、文科省は、教育の門外漢から許し難い侮辱を受けたと感じたであろう。こう考えると吉良上野介は経産省という見立てもできる。しかし、文科省が経産省に復讐するのは制度的には難しい。

 結局、かたき討ちをしようと思えば、安倍政権と戦うしかない。忠臣蔵で言えば、四十七士が幕府に戦いを挑むようなものである。

 そう考えると、前川氏が期待する四十七士が出てくるのかどうか。
非常に厳しい状況だが、もし出てくれば、市民は熱狂的に支持し、「平成の忠臣蔵」となる。

 そうなれば、本当に政治の潮目が変わるかもしれないのだが……。(文/古賀茂明

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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