しかも、前川前次官は悪の権化のように扱われ、自主退職を強要されたわけだ。


実は、この程度のことで懲戒免職なんてことは絶対にないのが霞が関。自主退職させるとしても通常の人事異動の時期まで待つのが普通だ。

 さらに、安倍政権の厳しい対応には、加計学園問題で官邸の意向に逆らった文科省への見せしめ懲罰という側面があったことも確実だ。少なくとも、やられた文科省、特に前川氏は、その意図を明確に感じ取ったはずだ。

 文科省は、正論を貫こうとしたら、力ずくで抑え込まれたという被害者意識を持っている。前川氏が、行政が歪められたという趣旨の発言をしたのはその証左だ。文科省側に、強烈な反感が芽生えたとしてもおかしくない。

●前川氏の乱は「平成の忠臣蔵」になるのか

 今回の前川氏の行動は、完全な個人の単独行動なのだろうか。

 前川氏には省内に多くのシンパがいると言われる。当然退職後も部下たちから、官邸に対する恨み節を聞いていたはずだ。

 文科省という役所の行政が官邸の横やりで歪められ、強大な官庁と違い、ひとり天下りで悪者扱いされた。このままでは、文科官僚の誇りも自信もズタズタにされたままだ。

 現職の後輩たちには難しい課題を突き付けることになるが、誰か立ち上がってくれる者がいるはずだ。そんな思いで今回の証言に及んだのではないだろうか。あるいは、すでに、後に続いて立ち上がろうと準備している後輩がいるのかもしれない。前川氏が、後輩官僚に対して気の毒だと言ったり、現職時代に自分ができなかったことを後輩に対して要求するのは申し訳ないというような発言をしているのは、そうした状況を反映してのものだと見ることもできる。

 たとえて言えば、今、吉良上野介(安倍官邸ないし内閣府官僚)に斬りつけた浅野内匠頭(前川氏)が、おそらくこれから官邸の人格攻撃などで、社会的に葬り去られる瀬戸際にある。仮にそうなったとしても、後輩の中から、大石内蔵助をはじめ赤穂の四十七士(後輩の心ある文科官僚)のような義士が現れて、仇を討ってくれるはずだ。

 そんな思いで前川氏は立ち上がったのではないだろうか。

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