「『森のくまさん』みたいですね」

 そう言って体を揺らした。

「この曲を聴いていただくとわかると思いますが、『森のくまさん』には似ていません。つまり、坂井さんはイメージを伝えた。コナンのファンの子どもでも喜ぶような曲のイメージです。作業に作業を重ね、レゲエのリズムを取り入れたり、ストリングスを入れたり。あらゆる手法を施しました。それでも、最終的に、子どもでも魅力がわかるような音楽になっています」

 寺尾氏の話を聞いていると、ZARDとしての坂井さんは、デビューから亡くなるまで、ごく限られたスタッフのサポートで作品を生んできたことがわかる。

「坂井さんは内輪の人には常に気を遣いつつも、明るくハキハキと色々な話をしてくれましたけれど、そこに知らない人が加わると、寡黙になるタイプでした。内弁慶とはちょっと違うけれど、繊細だったのでしょう」

 こうして、寺尾氏と坂井さんは、お互いの20代、30代の時間を共有した。しかし、坂井さんの最期に、寺尾氏は立ち会えなかった。

「最初に病だと聞いた時は思わず泣いてしまいました。結局僕はお見舞いには行っていません。メールでやり取りはしていましたが。坂井さんは歌詞を書いて、ライヴをやるつもりだと聞いていました。今ふり返ると、僕が知る坂井さんは、どの時期もまじめで、ストイックでした。プライベートでは、画を描いたり、ゴルフをやったり、愛犬と戯れたり、ジュエリーを自作したり、楽しんではいたようです。でも、僕が直接、接していた坂井さんは、いつも、自分の作品を作り上げるために貪欲に突き進んでいく女性でした」

(神舘和典)

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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