「きれいでしたね。どきっとするほどの透明感があったことを覚えています」

 2度目に会ったのもバードマン。デビューシングルの「Good-bye My Loneliness」のレコーディングだった。鈴木氏はZARDの制作スタッフとして、CDジャケットや宣伝用の写真やポスターなど、ビジュアルを担当することが決まっていた。

 この時から、坂井さんが亡くなる2007年まで、そして逝去後の作品でも、鈴木氏はZARDのアートワーク全般を受け持つことになる。

「このままの状態で撮影してくれ」

 スタジオでの長戸氏からの指示に、鈴木氏はとまどった。

「レコーディングの真っ最中。歌詞カードや譜面や飲みかけの缶コーヒーがテーブルの上に煩雑に置かれていました。僕が片付けようとすると、長戸プロデューサーに、止められました。坂井さんは自前の服にすっぴん。シャツの上に、たまたまスタジオの雰囲気に合うということでお貸しした僕の革ジャンをはおっての撮影です。とはいえ、プロのカメラマンもいません。撮影が得意なカメラ好きの社員がシャッターを切りました」

 そのリアルな写真が「Good-bye My Loneliness」のCDジャケットになった。アートディレクターとしての鈴木氏の認識は大きく変わった。

「ジャケット写真は、撮影スタジオで、きっちりメークをして、スタイリストがついて撮影すると思い込んでいました。でも、アーティストは女優ではありません。リアリティーが大切だと長戸プロデューサーに教えられました。それは30年近くたった今も、僕の基本的な考え方になっています。それに、坂井さんはありのままの姿で十分に美しかった。自然体でも顔立ちがくっきりとしていました。定番のデザインのジャケットや無地の白Tシャツでも絵になります。美しい女性にさらに手を加えると、過剰になってしまう心配もあったのでしょう」

 ジャケット写真には入っていないが、もとの写真にはまだ10代だったデビュー前の大黒摩季も写っている。この曲のレコーディングにコーラスで参加していたのだ。いかに普段と変わらない状態で撮影されていたかがわかるエピソードだ。

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