マイアミオープン準々決勝で敗れた錦織圭(写真:Getty Images)
マイアミオープン準々決勝で敗れた錦織圭(写真:Getty Images)

「まあ……ドローを見ても分かる通り、凄くチャンスはあったので、もったいないとしか言いようがないです」

 マイアミオープンの準々決勝――。

 手首に痛みを抱えた戦いでファビオ・フォニーニに敗れた錦織は、視線を落とし、声に「やりきれない想い」を滲ませた。今大会は、世界1位および2位のアンディ・マリーとノバク・ジョコビッチがケガを理由に欠場。全豪やインディアンウェルズマスターズを制した、実質現時点の最強選手であるロジャー・フェデラーも、ドローの反対側の山にいる。加えて今大会は、トップシード選手の早期敗退が頻発していた。錦織が準々決勝で対戦するのも、ランキング的には9位のマリン・チリッチか15位のルカ・プイユと思われたが、彼らはいずれも2回戦で姿を消す。錦織の前には、頂点への道が開けているかに思われた。

 しかし、錦織の視点から見れば大きなチャンスである展望も、トーナメント全体の趨勢や下位選手たちから見れば“シードダウンが多く、自分たちにも勝機のある展開”であり、錦織もまた、下剋上を狙う選手たちの標的になる立場。4回戦の試合中に第2シードを襲った突発的な手首の故障も、波乱の大会を物語るエピソードの一つであった。

 肘の痛みを訴えたマリーとジョコビッチに加え、今大会では世界5位のミロシュ・ラオニッチも、慢性的に抱えるハムストリングの故障のために3回戦を前に棄権を表明している。そのほかにも、昨年キャリアハイの6位までランキングを急上昇させたガエル・モンフィスも、現在は膝及びアキレス腱の故障のために休養中。昨シーズンを全力で戦い抜き試合数の多かった選手たちほど、今季の前半戦で苦しい戦いを強いられている。

 このようにトップ選手たちのケガや早期敗退が重なったのは、果たして偶発的な事態だろうか?

 マイアミオープンで決勝に進んだ、ラファエル・ナダルが言う。

「今起きていることだけを見れば、恐らくこれは偶然だろう。しかし広い視野で俯瞰すれば、偶然ではないのは明らかだ。これだけ毎日のようにハードコートで試合を重ねれば、どこかおかしくなる。ハードコートは身体への負担が大きすぎる」

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