また昨年2月に膝の手術を受け、ケガからのリハビリとコンディションを整えるため昨シーズン後半を休養に充てたフェデラーは、身体と心の連動性について次のように語った。

「毎日リハビリと治療を重ねていては、常に頭に雲が掛かったような状態になってしまう。素晴らしい天気や観客、これから対戦する強い相手へは気持ちが向かず、考えられるのは『膝が持つように。明日には状態が良くなるように……』ということのみになる」

 今回の手首の故障について錦織は、「今季はスケジュールをだいぶ減らしていて、身体は今まで痛みも無かった。急に(痛みが)出てきたので正直びっくりはしています」と言い、あくまで突発的なものであること、そしてさほど「大ごとではない」と強調した。しかしナダルが「偶然ではない」と言うように、あるいはフェデラーが「頭に雲が掛かっているような状態になる」というように、どこかで錦織の心身の歯車がかみ合わなかった部分もあるのだろう。

 長いシーズンを戦い抜くために必要なのは、適切な休養と、時には3カ月程に及ぶ遠征を戦いぬく体力を蓄えるための、トレーニング期間だと専門家たちは言う。敗戦の翌日にブラデントンの自宅に戻った錦織が、次に目を向けるのは4月24日に開幕するバルセロナ大会。例年錦織はこの期間にトレーニングを重ね、コンディションを整え、バルセロナでは3年連続で決勝進出の好成績を残している。

 今季初めて迎える3週間以上の、短いながらも長いこの“オフ”が、今の彼には何より貴重なはずだ。(文・内田暁)