また、大場医師は、首都圏の大病院と事情が異なることも強調する。

「当院では、がん以外の急病、胆のう炎、腹膜炎などの緊急手術が毎日のようにあります。それらはすぐに手術しなければ患者さんは亡くなってしまうので、外科医とその他の医療スタッフが昼夜を問わず緊急手術や術後の対応をしてその命を救っています。他科を含め、病院全体の総合力があるからこそ高齢者の手術を受け入れられるのです」

 こうして各病院を取材すると、高齢者は生存率が落ちるという病院もあれば、落ちないという病院もある。これらの違いは、どこにあるのだろう。どの病院も手術数ランキングで上位の病院であり、実際に手術はうまくいっているとみて間違いない。この差は、術後合併症や手術が引き金となる他病死のリスクを予測して手術する選択をしているか、そして対応できているかが左右しているといえるのではないか。

 患者の選択の概念図からは、「手術向き」の患者ばかりを選んで手術すれば生存率はよくなり、選ばずに「ふつう」の人まで手術していけば悪くなると推測される。生存率がよい病院は、手術の適応を厳しくしているのかもしれない。

 現在、手術向きかどうかを検討する指標やデータはなく、現場の医師の経験による判断でうまくいっているようだが、今後、急増する高齢者のがん患者に対しこのままでいいのだろうか。病院ごとに異なる治療法を示され患者が困惑する恐れや、「したほうがいい手術をしない」「しなくてもいい手術をする」という事態を避けるためには、全国統一の判断基準や評価方法が求められる。

 エビデンスに基づいた高齢者に対する判断基準がない現在、適切な医療を提供してくれる病院をどう選べばいいのか。肝がん編を締めくくるにあたり、取材した医師のアドバイスを紹介する。

「ある程度、手術の実績がある病院であれば、それほど判断基準に大きなずれが出ることはないのではないでしょうか。少なくとも年齢だけを理由に判断することはないと思います。もしそういう判断をされた場合はセカンドオピニオンを利用するべきでしょう」(山本医師)

「多くの手術を実施している病院であれば、当然、高齢者の手術も多く経験しています。それだけ合併症などのリスクに対応できる可能性が高い。肝がんだけの病気を診て判断するのではなく、高齢者特有のさまざまな問題点も考慮して判断してくれる病院にかかることをおすすめします」(國土医師)

(医療健康編集部・杉村健)