患者の選択の概念図(週刊朝日ムック『いい病院2017』より)
患者の選択の概念図(週刊朝日ムック『いい病院2017』より)

 高齢者(75歳以上)のがん手術は、余命を延ばしているのか? 週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2017」で、「肝がん」ではどんな条件を満たした人に手術をしているか、病院ごとに調査。その方針の違いが、術後の5年生存率で大きな差となって示された。

 首都圏の大学病院と地方の中核病院とでは事情が異なると考え、週刊朝日ムック「いい病院2016」で肝胆膵がん手術数が19位の静岡県立総合病院の肝胆膵外科部長、大場範行医師を取材した。

 同院は、15年1月から16年11月までに原発性肝がんの手術を150例実施。うち、75歳以上は68例で、45.3%とかなりの割合を占める。

「内科やかかりつけ医から外科に紹介されてくる時点で、手術に向かない人は省かれているため、当院では基本的に本人が希望すれば手術しています。この5年間で手術をしない選択をした高齢者は2人だけで、家庭の事情と本人が希望しなかったことが理由です」(大場医師)

 手術するか否かの判断基準は、若年者でも用いる病気の進行度や肝機能、合併症などに加え、高齢者には▼本人が外来まで歩いてこられる▼手術を希望している▼家族のサポートもある、といった観点でみる。

 また、手術前に院内の呼吸器科、循環器内科などを受診してもらい、その科の医師の判断を聞くことも欠かさない。それらの過程を経た結果、ほとんど手術をしているという。

 気になる5年生存率はどうか。06年5月~13年12月の肝細胞がんの初回切除(症例数195)で、若年者(同134)が70.5%だったのに対し、高齢者(同61)は44.4%と25ポイント以上も落ちる結果となった。大場医師はこう説明する。

「術後平均在院日数はほぼ同等で、術後合併症は高齢者が少し高い程度。つまり、手術自体は高齢者だからといってあまり差はないと考えられます。また、他病死もそれほど多くないため、生存率の差は、肝がんが再発した際の治療法の違いにあるのではないかと推測します」

 肝がんは再発の多いがんであるため、複数回の治療が必要になるケースが珍しくない。若年者は、再発しても再度の手術や他の治療を検討するのだろうが、高齢者では本人が希望しない、もしくは手術できないと判断されることで生存率に差が出るというのだ。

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