浦東空港の到着階。今回はここでうろうろしてしまった
浦東空港の到着階。今回はここでうろうろしてしまった

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第18回は上海浦東国際空港から。

*  *  *

 浦東空港でちょっと困った。

 地下鉄に乗れば、7元、約109円で市内までいくことができる。しかしその7元が手元にない。しかも、中国元を手にする手段もみつからなかった。泊まるホテルは空港バスの停留所に近いので、できればバスで行きたかった。しかし空港バスは20元、約310円。

 いつもは前回の中国の旅で余った中国元を持参する。しかしついうっかり、それをもってくるのを忘れてしまったのだ。

「まあ、空港のATMでキャッシングすればいいか」

 そう思いながら空港に降り立った。

 1階の到着階には、上海の浦発銀行のATMがある。しかしなぜか、このATMではキャッシングができない。それは知っていた。代わりに、2階地下鉄乗り場の切符の自動券売機近くにある、ほかの銀行のATMではキャッシングができる。

 ところが今回、行ってみるとATMがない。インフォメーションで聞くと、ターミナルビル1階の浦発銀行のATMしかないという。そこに戻り、カードを入れてみたが、やはりだめだった。

 残る手段は現金の両替なのだが、1000円札1枚しかなかった。しかし中国の主だった空港の両替銀行は一律50元、775円 の手数料をとる。つまり1000円札1枚は、両替レート上では65元だが、手数料50元をとられると15元にしかならない。

 なんだかすごく損した気分になる。さてどうしようか。

 夜行の飛行機だった。早くホテルに行って眠りたい。すると、ホテルの受付カウンターの男性が声をかけてきた。

「ATM使えないでしょ」

 多くの外国人がクレジットカードを差し込んでも現金を引き出せなかったのを見ていたのだ。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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