周辺には兵士の姿も目立った。後継国王をめぐって王室は揺れる
周辺には兵士の姿も目立った。後継国王をめぐって王室は揺れる

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版、「世界の空港・駅から」。第13回はタイのバンコク中央駅から。

*  *  *

 タイのプミポン国王が亡くなられた。

 タイのそこかしこに掲げられた、プミポン国王の写真はどうなっているのだろうか。鉄道の駅にも、必ず立派なものが飾られていた。フアランポーンとも呼ばれるバンコク中央駅には、ひときわ大きな写真がホームへの入り口上に掲げてあった記憶がある。

 死去2日後の、バンコク中央駅に向かった。駅の西側入り口は騒然としていた。黒いズボンにTシャツ姿の若者たちが看板を手に人々を誘導している。王宮前広場に向かう弔問客のために、無料乗り合いバンや無料バイクタクシーが運行されていた。

「乗り口はこっちです」彼らが声をからす。皆、ボランティアなのだという。

 広い待合室に入った。バンコク中央駅の外観はパリの北駅に似ている。高いドーム型の天井があり、その下が切符売り場と待合室になっている。入り口の壁を見あげた。そこにプミポン国王の写真は……なかった。代わりに5代目国王だったチュラロンコンの肖像画が掲げられていた。僕の記憶違いだろうか。

 振り返ってみると、駅の正面入り口にプミポン国王の大きな写真が白い花に囲まれて掲げられていた。手前には記帳台もあった。こちらに写真を移したのだろうか。結局真相はわからずじまいだったが。

 バンコク中央駅は終着駅である。タイの各地を出発した列車が、この駅に集まってくる。日本なら東京駅にあたるのだろうが、すべての線路がこの駅で終わるから、バンコクの玄関という雰囲気を醸し出す。

 しかし内実は違う。タイ国鉄の公務員気質が災いし、人気はバスやLCCに移ってしまった。その代わり運賃は安い。数年前の政治の混乱期、選挙での票を増やすために、各駅停車の一部が無料になった。貧しいタイ人は列車を使うことが多い。

著者プロフィールを見る
下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

下川裕治の記事一覧はこちら
次のページ