金藤の金メダルから約1時間後、萩野公介が今大会2つ目の金メダルを目指し、10回目のスタート台に立っていた。

 萩野は、このレースを心待ちにしていた。世界のトップであり、萩野が尊敬するスイマーでもあるマイケル・フェルプスとライアン・ロクテ(ともにアメリカ)と戦えるチャンスは、この200m個人メドレーの決勝しかなかったからだ。

 スタートして飛び出したのは、フェルプス。萩野は少し遅れる形で100mをターン。150mは5位で折り返し、フェルプスからは身体1つ、ロクテからは身体半分ほどの差だった。ここから一気にラストスパートをかけた萩野は、ロクテをあっという間に飲み込んだが、フェルプスには及ばなかった。それでも、1分56秒61のタイムで銀メダルを獲得した。

「もっとよい勝負をしたかったんですけど、今は素直に疲れました」

 マルチスイマーを目指し、1試合で何レースこなしても、決して疲れたという言葉は口にしなかった男が、今回ばかりは精神的にも肉体的にも限界を迎えていた。それだけ五輪という舞台は、ほかの世界大会とは比べものにならないほどの重圧がかかっていたのである。しかし、それでも萩野はメダルをもぎ取った。進化は止まらない。ここを新たなスタートとして、萩野はまた強くなって、世界の舞台に戻ってくることだろう。(文・田坂友暁)