かつての自分と同様に、10代の次世代を担う選手たちにも五輪を経験させたい。ひとりでも多くの日本選手が五輪の舞台で戦えるように。ロンドン五輪の後、一度は現役引退も考えたが、リオで若手選手と共に団体で出場したい、しなければならない、という使命感が太田にとって大きなモチベーションでもあった。

 だが、ランキングでわずかに及ばず、団体での出場は叶わなかった。

 一時は練習にも身が入らないほど落ち込み、今でも後悔がないと言えば嘘になるが、五輪への夢を絶たれ、競技の第一線を離れた仲間のためにも、次世代を担う若手のためにも、五輪で戦う自分には、為すべきことがある、と前を向く。

「男子フルーレのためにも、仲間のためにも結果を残したい。僕に足りないのはオリンピックの金メダルだけなので、そこだけを目指して、最高のプレーを心がけたいです」

 現在の世界ランキングは2位。日本フェンシング界の先駆者としてのプライド、同じ場所に立つことができなかった仲間への思いを込めて。8月7日、太田雄貴はすべてをかけた戦いに挑む。

(文・田中夕子)