こう語るのは飾り切り職人の“匠”の1人、清水勉さん(54)だ。飾り切り歴35年のベテランだが、入社した1980年ごろ、スーパーなどで直接消費者とコミュニケーションを取る店頭販売の担当になった時は、戸惑ってばかりだったという。それまであまり包丁を握ったことがなかったが、商品に興味を持ってもらうため、毎日必死で飾り切りの実演を重ねた。テレビ番組などに出演するようになった現在では「あの当時の自分からは信じられない」と話す。

 飾り切りについて、「子どもたちが小さい時から食に対する好奇心を高め、命の恵みに感謝する気持ちを持てるようにするためには大切な要素」と語る清水さん。最近の子どもはリアルな飾り切りに興味を示すため、「いかに特徴をとらえて本物に近づけるかがポイント」だという。食卓にも取り入れやすいようにと、スキレット(鉄鍋フライパン)や家庭用ホットプレートといった、よく使われる調理器具や売れ筋の家電を使ったメニューの考案にも力を注ぐ。

 清水さんに上手な飾り切りのこつを聞いてみたところ、「飾り切りに技術は必要ない。包丁を入れる角度や切り込みの入れ方を把握すれば簡単に短時間で作れる」という答えが返ってきた。初心者にお勧めだというハートやアヒルは、ウインナを包丁で切る回数も3回以内で完成するという。

 また日本ハムによると、細かく切ることが多い飾り切りには皮なしタイプのウインナが適しているが、比較的切り方が簡単なものなら皮のあるタイプでも可能だそうだ。

 清水さんは「飾り切り教室は、五感をフル回転させて調理体験ができる場所。教室での実演を通して子どもや親御さんたちと驚きや発見を共有し、家族のきずなを強める機会を提供していきたい」と意気込む。子どもから「かざりぎりをお家でやってみました」という手紙をもらったりすると、やりがいを感じるそうだ。

 飾り切りの間口は広いものの、職人になるためには、「ウインナ、ハムで30品、お客さまの前で実演し、飾り切りの魅力や食べる喜びを伝えることができるなどの技能が必要」(日本ハムの担当者)だという。もちろん、ウインナやハム自体の知識も必須だろう。

 職人級までいかずとも、ささっとウインナを切って、家族や恋人、友人の喜ぶ顔が見られればしめたもの。おもてなしや日々の食卓、お弁当で挑戦してみてはいかがだろうか。(ライター・南文枝)