福島市にある飯坂・穴原温泉おきな旅館のたら子、ビビコ、グレ子、あんこはすべて雌。たら子が母で、ほかの3匹は娘である。女将の金子悦子さんによると、女将の親子は、いろいろな役割を務めている。

 4匹とも働き者で、ロビーでお出迎えしたり、お客さんにおなかを見せて大歓迎したり、宴会場に並んだスリッパの上に載って温めておくことも。大きな声を出して追いかけてくる子どもだけは、ちょっと苦手らしいが……。

「感心するのはグレ子。うちの宴会部長です。ちょっとふすまを開けて中の様子を拝見し、空気を読みます。『おいで』と言われたら中に入っていって甘えてくる。逆に叱られたら、すぐに退散します」(女将の金子さん)

 静岡県伊豆市の土肥温泉の庭園旅館「玉樟園新井」には、新井誠治社長に忠誠を尽くすチャーミングなミーシャ(雌)がいる。最初は旅館に住む調理師が面倒を見ていたが、入院したため社長の家に転がり込んだらしい。1カ月ほど行方不明になり、旅館から500メートルほど離れたところでやせ細って鳴いていたところ、発見された。帰ってきた後は社長にべったり。社長の方も愛情が深まった様子だ。

「気まぐれで、どこにいるかわからないことも多いので、なるべくお客様の目に留まるよう、玄関にお立ち台を作りました」(新井社長)

 「猫のいる宿」ということで認知度が高まり、客足増にも貢献するようになった。ミーシャ目当ての客も多い。“猫好き”の客をちゃんと見分けて甘えるちゃっかり者らしい。

 お出迎え、宴会の世話、浴場での目配り、お見送りなど……。気働きは板に付いたもの。猫ブームの昨今、温泉の人気を左右するのは美人女将より、猫女将かも。どの旅館でも、ご主人様を助けて、リピーター獲得にひと役買っている様子である。(ライター・若林朋子)