「私の仕事は人と人が集まる場を作り、人の環をつなぐこと。そのための仕掛けや企画を考えるのは、都会のオフィスで机にしがみついていてもダメですね。この仕事自体、時代の中で新しく生まれたものですから、波の音を聞きながら考える新しいやり方の方がいい企画が生まれます」。

 子どもの頃から三浦の海には親しんでおり、知り合いもいたが、2週間暮らしてみて、さらにたくさんのつながりができた。
「市が開催してくれた交流会で、おもしろい活動をしている移住の先輩や青年会議所の方々と知り合ったことは大きかったですね」と語る杉本さんは、トライアルステイ終了後、自ら呼びかけてステイ経験者の同窓会を企画。そこに集まったのが現在移住検討中の2家族である。

 杉本さんはすでにアクションを起こし始めている。4月から自分が週末暮らす家を友人たちの週末住居にもする予定だ。おそらくは、三浦の人々との交流の場ともなるだろう。

 市としても、定住の前段階となる2拠点移住は歓迎だという。「三浦市の観光客は滞在時間が短いのです。道が1本で渋滞を恐れるからか、数時間で去って行ってしまう。滞在時間を長くして三浦の良さをもっと知っていただくことが定住につながると思うので、週末に暮らすやり方もありだと思っています」(徳江さん)。
 
 こうした新規の移住者を迎え入れる住民もいる。すでに移住し、地域を盛り上げるためにさまざまな活動をしている“新住民”たちだ。その代表格の一人が三崎下町商店街に「古道具屋ROJI」を構える安原芳宜さんだ。8年前に夫婦で移住。マグロだけではない三崎の底力を発信したいと意欲的だ。

 安原さんはやはり古道具屋を営む義兄とともに、商店街で「MISAKI MARKET」を毎月第1日曜に開催してすでに4年になる。
「最初は義兄の店などと集まってワイワイやっていたのですが、徐々に仲間が集まってきて、ものづくりをしている人、ユニークな商品を扱っている人などが出店することになって現在では10社以上が参加してくれています。みんな、三崎の魅力の発信者でありファン。どんどん仲間が広がっています」。

 安原さんは若い移住者の相談役ともなっている。「アトリエを持ちたい」「お店を開いてみたい」という若い移住者や三崎ファンの声を受けて、2014年には意欲的な仲間3人を誘い、ものづくりの発信基地ともなる「ミサキファクトリー」をオープン。閉じている商店街のシャッターを1つでも開けたいと、空き店舗を借りて実現した。
「クリエイターや職人なら住む場所を選びません。おもしろい人をつなげていけばどんどん人は集まる。私の目的は観光客相手よりまず、定住者を増やすことです」。

 自然に憧れて田舎暮らしを選んでも、地域に入り込めず撤退する人は多いが、三浦なら移住の先人たちがいる。悩んだときに相談できる人がいるかいないかは移住者にとって大きな問題である。

 三浦市では今年もトライアルステイを行う予定だ。開催は秋をめどにしている。情報は三浦市のホームページに掲載される。(島ライター 有川美紀子)