その勢いに乗り第2弾として、幅さんを通じて万城目さんに短編小説の執筆を持ちかけたところ、まさかの快諾。 万城目さんは前述のトークショーで、「アマゾンでクリックすれば家まで本を届けてくれる時代に、城崎に来ないと1文字も読めない。その不親切な感じに引かれた」と理由を明かした。

 万城目さんは13年末と14年春に城崎を訪れ三木屋に宿泊、「城の崎にて」に出てくる桑の木や、志賀がイモリに石を投げた渓流などをたどり、東京に戻って小説を書き上げた。今度はお湯につかって読めるようにと、耐水性の紙を使い、タオルをカバーにするユニークな装丁とした。こちらも14年9月の出版以降、約4000部を販売している。

 そして第3弾はなんと、あのベストセラー小説『告白』の著者である湊かなえさんが新作「城崎にかえる」を書き下ろすこととなったのだ。毎年冬に家族で城崎を訪れるという湊さんは、『城崎裁判』を購入しており、執筆を依頼してみたところ、承諾してくれたという。 仕事に疲れて城崎を訪れた女性が母親との思い出を振り返る物語で、16年中の発売を目指す。

「自分が肌で感じている城崎の良さを、物語を通じて、一人でも多くの人たちにお伝えできるよう、がんばりたい」という意気込みのコメントを寄せた湊さん。「実家や祖父母宅がなくとも、大切な思い出がある場所は故郷になりえる」という物語だそうだ。 万城目さんもトークショーで、「バッタバタと人が死ぬのかと思ったらそんなんじゃないらしい。優しい方の湊さんが書くのだとあらすじを見て思った」とウイットに富んだ期待を寄せた。

 次々に著名な作家の協力を得られ、本が人気となったことから、最初は「若いもんが変わったことをやっている」と半信半疑だった城崎の人たちの意識も変わってきた。「新しい作品はいつできるのか」と聞かれることも増えた。大将さんは「城崎で文学を育てていきたい」と意気込む。

 万城目さんが「(東京から)伊賀と同じぐらい遠い」と評した城崎までは、飛行機なら東京から最短約2時間、大阪からは最短約1時間。熱いお湯につかって、文学の香りを探し出してみてはいかがだろうか。まったくもって不便で、でも温かなまちおこしの今後に期待したい。

(ライター・南文枝)