「もともとは西武新宿線の中井駅に、ミャンマー人の僧侶がいるお寺があったんです。中井の近くで、交通の便がいい高田馬場にミャンマー人たちのコミュニティーができていった」(サイさん)

 レストランだけでなく、食材店も多い。「ノング・インレー」が入居するビルの8階には、いくつかのミャンマー雑貨屋が並び、完全にアジアンワールドと化している。ミャンマー特産の「発酵させた、食べるお茶」から、シャン族の好む乾燥させた高菜、かみタバコ、ナマズのふりかけ、ミャンマーのお菓子、カップ麺、調味料、ハーブ類、コメ……アジアの市場に潜り込んだかのようで、とても日本とは思えない。

「お客はミャンマー人やインド人が多いけど、アジア好きの日本人や、アジア系のレストランで働く人が食材を探しに来ることもありますよ」とは店員のウィンさん。

 ミャンマー語のフリーペーパー「ハロー・ミャンマー」もある。発行しているのはミャンマー人向けの国際電話カードなどを販売する会社だ。日本語とミャンマー語による誌面構成で、政治、経済などミャンマー関連のニュースが充実している。また日本文化の紹介、ビザについてのアドバイス、マイナンバー制度が外国人に及ぼす影響など、生活情報も豊富だ。

 ミャンマー語の媒体は日本にいくつかあるが、月刊誌はこの「ハロー・ミャンマー」だけだ。ミャンマー大使館のほか、レストランや旅行会社、大学、日本語学校などに配布するため毎月3000部を刷っているが、好評ですぐになくなってしまうという。広告効果も高いそうだ。高田馬場にミャンマー社会がすっかり定着しているシンボルのような雑誌だ。

 発行主である間宮さんは日本国籍を取得したミャンマー人だ。これからもミャンマー人は増えていくだろうと話す。

「これまでは留学というと欧米やシンガポールが多かった。それが日系企業の進出ラッシュによって変わってきています。アニメや漫画など日本文化も人気。これから留学生は多くなっていくでしょう」

 新しい時代を生きるミャンマー人たちの街、高田馬場。活気ある若いアジアのエネルギーを体感しに、ほかではなかなか食べられない少数民族料理を味わいに、訪れてみてはどうだろう。

(文・室橋裕和)