途中までは車で行けるが、現地までの片道5キロは歩いて行かなければいけない。年間降水量は10ミリ、日中は気温40~43度にもなる砂漠を、2時間かけて歩いた。荷物は機材を含めて約20キロ、脱水症状を防ぐため、1分に1回水を飲みながらの道のりだったという。

 そうしてたどり着いたザ・ウェーブは、幾つものうねった模様の山が連なる、想像を絶するものだった。吉田さんは「うわーっ」と声を挙げた後は言葉にならず、それから2時間弱、無我夢中でシャッターを切り続けたという。その日だけで1000枚以上撮影した。

 もはや写真家としてはベテランの域に達しているが、長年やっていると、それなりに失敗もあったそうだ。カメラに写真データを記録するメディアが入っていないのに気付かず、たくさん撮って帰宅してがっかり、竹田城の撮影ポイントである山のふもとに着いて三脚を忘れたことが発覚し取りに帰る、といった親近感がわくようなこともあったという。

 100回以上訪れている中国では、上海での国際線から地方へ向かう国内線への乗り継ぎで、入国手続きのために手荷物を降ろすのを忘れたことも。手荷物は別の場所に運ばれてしまい、届くまでの3日間、足止めをくらってしまったが、「郷に入れば郷に従え」とあせらず、観光などをして過ごしたそうだ。

 傘寿(さんじゅ)を過ぎた現在でも、自宅にいることは少なく、しょっちゅうどこかに撮影に出かけている。吉田さんは「24時間、365日、写真が撮れない時はない。アングルや時間帯、カメラの機能を工夫して、誰も撮ったことのない写真が撮れたら気分がいいじゃないですか」と話す。「撮った瞬間から、その写真は過去になる。生きているうちにもう1枚」と欲望は尽きないという。

「写真を撮りに出かけている時よりも、自宅で写真を整理している時の方がかえって体の調子が悪くなる」と笑う吉田さん。取材をした日も、夜通し星を撮り続けた後だった。

 現在は、竹田城以外にもあるという朝来市の“絶景”を撮りためている。時機が来れば発表するつもりだという。その日が来るのを、楽しみに待ちたいものだ。

(ライター・南文枝)