各国の首脳は「世界最高峰のトイレ」を使いこなせたのだろうか? 病院など公共施設のトイレでは「ココ洗浄、押す」など手書きの張り紙を見ることが少なくない。国内の商品にはリモコンに「止」「水量」などの表示がある。「海外市場向けの商品だからやはり英語? それとも設置場所に準じてドイツ語だった? いろいろあると煩わしく思われるだろうなあ……」などと心配してしまう。しかし、そこには深い配慮があった。

「リモコンのデザインはシンプルで、多用するボタンのみとし、数は少なく、分かりやすくしています。デザインを重視しつつ使いやすくするという点に苦労しました。これは日本国内でも人気があります。トイレというスペースにデザイン性は大切なポイントです」
 
 なるほど……「至れり尽くせり」のトイレは、時には自ら機能を厳選して提示する。サービスし過ぎないというのも、「おもてなし」の極意である。

 シュロス・エルマウに設置されたトイレ、一見すると宙に浮いているように見える。欧州では、壁から突き出したような便器が主流である。これは、給排水の構造が東洋と西洋では違うことに起因するとか。日本では目にしない四角い便器など、デザイン性の高い製品が多いのも特徴だ。多くのメーカーが便器を製造しており、日本のように便座との接合部分にビスを通すためにあけられている2つの穴の幅が規格で定められていないほか、便器の大きさも統一されているケースが少なく、多種多様な便器が販売されている。

「トイレに関して欧米人はデザイン性、日本人は機能性を重んじる気がします。欧米ではトイレが洗面所や風呂場と一緒になっており、便器を横から見ることも。家具を選ぶような意識を感じます」(前出のTOTO広報)

 以前、日本の温水洗浄便座に感激したマドンナが、大量に商品を購入して帰ったという報道があった。「使ってもらえれば快適さは分かってもらえる」というのがメーカー側の信念である。しかし、海外で温水洗浄便座の普及がなかなか進まないのは、便器の多様性が一因だ。日本企業は外国の便器メーカーと手を組んで商品を開発したり、何より日本製の便器を選んでもらおうと公共施設への設置を進めたりするなど、あの手この手で売り込んでいる現状がある。

 ところで、2016年に日本で開かれるサミットの開催地が、三重県伊勢市に決まった。会場となることが想定される「志摩観光ホテルクラシック」は現在、耐震補強や改装で工事中だ。おそらく、トイレも「サミット仕様」になると思われる。同ホテル広報に、どのメーカーの製品が設置されるかを聞いたところ、「ノーコメント」とのこと。リモコンのボタンが多い国内向け商品ならば、トイレの個室に入ったまま出てこない他国のリーダーがいるかもしれない。その場合はぜひ安倍晋三首相、ドア越しに使い方を説明して、優れた日本のトイレをトップセールスしていただきたい。

(ライター・若林朋子)