小泉今日子は、アイドルのイメージを完全に断ち切る必要のあった29歳で、永瀬正敏と結婚しました。女優としての個性を確立したところで独身に戻り、20歳齢下の若者と恋愛もしています。夫婦ではなくなった永瀬とも、「映画人」としては理解しあっています。

 こうして見ると、「さすが小泉今日子。出会い方も別れ方も絶妙」と言いたくなってきます。

 しかし、ある人がたどった行路がベストかどうか、本当のところはわかりません。小泉今日子は言っています。

<ただ、いま、やり残したことあるかなあっていうと、それが出てきますね。子ども生まなかったな、子ども育てなかったなって>(注8)

 永瀬正敏に仕事をやめろと言われていたら。相米慎二に見こまれなかったなら。そしてあそこまで演技の才能がなかったら……。

「才能があること」や「幸運に恵まれること」は、短いスパンで見ればもちろん「いいこと」です。ただし、それがその人にとってどういう意味を持つのかは、生きている限り揺れつづけます。

 近年の小泉今日子の静かな輝きは、そのことを体の奥深くで知っている人のもののように私には映ります。

※助川幸逸郎氏の連載「小泉今日子になる方法」をまとめた『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新書)が発売されました

注1 「小泉今日子ロングインタビュー 目指すのは中年の星!」(「AERA 2008年9月22日号」朝日新聞出版)
注2 「阿川佐和子のあの人に会いたい 小泉今日子」(「週刊文春 2001年1月25日号」文藝春秋)
注3 「ボクらの時代」(2014年6月8日放映 フジTV)
注4 「永瀬正敏ロング・インタビュー」(「アクターズ・ファイル永瀬正敏」キネマ旬報社 2014)
注5 「インタビュー小泉今日子」(「アクターズ・ファイル永瀬正敏」キネマ旬報社 2014)
注6 「インタビュー1 今日」(「Switch 2006年6月号」 スイッチ・パブリッシング)
注7 注4に同じ
注8 注3に同じ

助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)
1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など