たとえば参議院議員選挙がまさに始まろうとしていた2013年6月26日、TBSのニュース番組『NEWS23』が放送した中身をめぐって、自民党がTBSに対して「公平性を欠く」として抗議し、自民党幹部への取材や番組への自民党幹部の出演を全面的に拒絶した事件。長年、テレビ記者をやってきた水島氏は、政権与党のこうした行為に懐疑的だ。水島氏は、問題となった番組について「どこがどう偏っているのかピンとこない」「見る人間によって評価や受け取り方が分かれる報道」と語った上で、こう持論を展開する。

「そういう微妙な報道だった点を考えると、細かい報道の中身までを政権党が問題視して、選挙公示日になって特定のテレビ局にだけ取材・出演拒否をするという行為が、民主主義が進んだ国での政党と報道機関のあり方として良いのかは問われるべきであろう」(同書より)

 この問題について、特にネット上などでは、TBS側の報道姿勢を問題視する向きも強い。しかし、こうした“世論”が、テレビの信頼失墜に乗じた、権力側の過剰介入という側面を後押ししていることも忘れてはいけない。

 他方、この事件をめぐるTBS側の対応にも水島氏は首をひねる。TBSは本件に関し、自民党に「事実上の謝罪」をしている。こうした対応について、水島氏は「自局の選挙報道に与える不利益を計算したその場しのぎの反応に思える」(同書より)と語る。

「TBSは『報道における公平公正をどう考えるべきか』を自民党と徹底的に議論したり、『政権与党ならば、番組内で堂々と反論してほしい。そのための時間は差し上げます』などと強気に出たりすることもできたはずである。自分たちに若干の落ち度があると感じたならば、番組で検証をやっても良かったと思うが、そうした思い切った対応もしなかった。要は中途半端なのだ」(同書より)

 テレビが誕生して60年超。劣化する巨大メディアに多くの国民は関心を失いつつある。「テレビに命を吹き込み、かつてのような『夢』を持てるまでに回復させるには、人間の感受性や理性を込めて放送していくしかない」――同書の中でこう語った、著者の言葉は、“中の人”に届くであろうか。