チェックイン後、1泊に必要な電気を確保するため、台車にミニ太陽光パネルとバッテリーを載せた特製のソーラーワゴンを押しながら、ホテルマンと団地を散策。その後、ホテルマンたちとのレクリエーションを経て、夕食後は団地の広場で開催される「夜の太陽まつり」に参加。昼間蓄電した電気でサンセルフホテルの象徴である「夜の太陽」(LED電球が入った大きな風船)を灯し、その柔らかな明かりのもと、目の前で奏でられるヒーリング音楽に耳を傾けながら、幻想的な夜を過ごす。さらにその後は、客室でマッサージやプラネタリウム、アロマテラピーなどのルームサービスを楽しむなどのリラックスタイムとなる。昼間に蓄電した電気を使い、夜の時間を楽しんだのち、就寝。翌朝はゲストへの事前アンケートをもとにホテルマンが計画した河川敷へのピクニックが行われ、ゲストは思い思いの時間を過ごした。

 同プロジェクトを主導するのは、現代アーティスト北澤潤さん。様々な地域でプロジェクトを手掛けてきた北澤さんには、どのプロジェクトにも共通したコンセプトがある。

 それは、日常にある当たり前のものを「もうひとつの日常(非日常)」として自分たちの手でつくり、人々が日常と「もう一つの日常」を生きることで、ありふれた日常を普段とは違う視点で捉え直すきっかけを作ろうというもの。

 北澤さんは、サンセルフホテルの狙いについてこう説明する。

「サンセルフホテルで過ごすことで、『太陽はどのように自分たちの暮らしとつながっているのか?』、『自然と人間との関係は?』という問いが生まれてきます。『もうひとつの日常』をつくることで、日常に対して問いや行動のきっかけなど、あらゆる創造性を引き出すきっかけができます。また、太陽光で蓄電してもらった電気を使い切り、全ての電化製品が使えなくなることで、エネルギーの有限性も体感できる」(北澤さん)

 団地の住民とゲストが協力して「ホテル」と「太陽」、そして非日常の空間と時間を作り出すサンセルフホテル。とても「不便」なホテルだが、だからこそ「太陽と人間の関係」や「エネルギー」について再考するきっかけにもなる。

 太陽光や風力など再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を巡り、大手電力会社が揃って新たな受け入れを中断するなど、再生エネのさらなる発展にはまだまだ障壁も残されているが、このような小さな取り組みのひとつひとつが積み重なることで、再生エネを推進する、もっとも強い原動力となるのではないだろうか。