「大学を出て3年間、何もせずに、毎日、パチンコをして小遣いを稼ぎ、本屋で本を買って家で読む、友だちとも会わず、学校にも行かず、そうやって暮らしていた。(中略)今から考えても理想的な生活だった」

 その後、外国人に日本語を教えるようになり学問の道へと進んだ金田一氏だが、ニートの子を持つ親に対して、次のようなメッセージを送っている。

「(子どもたちは)皆さんのすべての教えを十全に受け止めているはずである。だったら、信じた方がいい。きっとそのうち、ぶらぶらしているのにも飽きる時がくる。退屈するということがある。それまで、ぶらぶらしているのを眺めながら、待っていてあげて欲しい」

「私の父はずっと待っていてくれた。今になってそのことがどんなに感謝すべきことかが分かるのだ」

 こうしたアドバイスに「金田一家だから、そんな余裕があったのでは?」といった声も挙がるかもしれない。ただ、「待ち」の姿勢をとるにしても、なんとかして子どもを働かせるにしても、ニートの人々は「一歩踏み出す」ことの難しさを感じている一面もあるから、根気よく見守らなければならないのは事実。その意味で、金田一氏の言葉は傾聴すべき意見といえそうだ。

 なお、同書では、祖父、父に関するエピソードも数多く収録されており、また、言語学者として見た最近の日本語事情についての所感も述べられている。100年という長い時間を国語研究に費やしてきた金田一家ならではの「日本語観」が誰にでも楽しめる本といえそうだ。