就労も就学もせず、職業訓練も受けていない人を指すニートが、社会問題として扱われるようになって久しい。総務省が6月に発表した統計によると、ニートの数はこの10年間、80万人前後で推移しており、15~34歳の人口の約2%を占めるという。

 もちろん境遇や事情はそれぞれ異なるため、彼、彼女たちをひとくくりに捉えて、この物事を論じるのは適切ではないし、そうなった社会的背景にも目を向けるべきであろう。とはいえ、世間一般のニートに対するイメージは非常に否定的で、「働けるのに仕事していない」「せめて、アルバイトくらいはするべき」といった厳しい意見が多数派となるのではないだろうか。

 ただ、こうした問題は今に始まったことではない。

 明治から昭和初期にかけて、「高等遊民」と呼ばれる人々がいた。大学を卒業しても就職するのではなく、読書や自分の趣味に没頭した人々を指すものだ。夏目漱石も、いつくかの作品で高等遊民を取り上げており、小説『吾輩はである』で苦沙弥先生の友人として登場する迷亭も、その一人。

 そして、言語学者の金田一秀穂氏も、この迷亭に憧れ、自身も高等遊民、というよりニート生活をしていたと、著書『金田一家、日本語百年のひみつ』(朝日新書)で明らかにしている。

 金田一氏といえば、祖父・京助(1882~1971)、父・春彦(1913~2004)と三代にわたって言語・国語学界に携わる家庭に生まれた、いわば日本語研究の分野におけるサラブレッド。「そのような家に育ちながら、ニート?」と驚く人もいるだろう。当時の生活ぶりについて、金田一氏は同書の中で次のように述べている。

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